RVA レヨンベールアクア水草図鑑

クリプトコリネの水上での栽培方法・・・準備編
1 栽培準備するもの(基本編)
クリプトコリネを入手する前には準備と心構えが必要で、後で慌てないようにしてもらいたい。
まさに事前一策に勝る事後百作である。
容器 ガラス・アクリル水槽・発泡スチロール・衣装ケースなど何でも良い。
サイズは一般の60cm水槽程度のもので良い。 蓋 市販のガラス蓋で充分だが、水槽の外枠の大きさにカットしたガラスが使用しやすく
(メンテ時の落下を防ぐ)
湿度をコントロールする為の隙間を開けやすいので重宝するだろう。
照明器具 60cm水槽で20w型蛍光灯2灯。
蛍光管は使い古しのものでもよい。
出来れば間接的な自然光が入る条件の
場所に設置すると株の状態がしっかりする。
温度・湿度計 温度は
15℃~35℃くらいが適応範囲である。
湿度は70%~90%程度
栽培の際一番気になる要素であり、
出来れば高級な良い温度計と湿度計を
装備すると水槽の状況を把握しやすいので
安心であろう。
水槽内底砂 ソイル系や富士砂などの砂系やピートなどの腐葉土系どれでも良い。
メンテナンス性を重視する場合は砂系が楽で、
腐葉土系を使用すると状態はアップしやすいだろう。
底砂を敷かないやり方もあるが、敷いたほうが腰水を低水位に抑えることが出来る。
さらに鉢底から根が出始めてからも、
さらに勢いよく成長していける点は魅力的である。
鉢 素焼きの2号~3号鉢が一番使いやすい。
素焼き鉢は水の浸透がよく保湿性に優れている。
どうしても腰水の水位を高くしている場合で、
根腐れしやすい種類があるときは深鉢を使用するのも効果的であろう。
鉢底ネット 鉢の穴から用土がこぼれないようにするもの。
余り目が細かくなくても良い。
用土 赤玉土、ピートモス、腐葉土、鹿沼土、富士砂、
桐生砂、バーミュキュライト、水コケなどの園芸用土。
ここは栽培者によりさまざまであり種類により変化する。
肥料 顆粒状の園芸用肥料やテトラクリプトなどの
水槽用底面肥料など何でも良い。
栽培者によりコダワリが出てくる。
水 できれば状態の良い水草水槽の水。
どちらかといえば低めのPHの水が使いやすい。
低PH・低導電率の水が欲しい場合、
雨水を使用することも良くある。
イオン交換やROなどで水にコダワリを求めるのも
良いのではなかろうか。
保温器具 冬場で室温が低いところではヒーターで保温を行う。低温でも枯れてしまうことは少ないが、成長がすこぶる遅い。
ヒーターは水槽内の底砂に埋めて使用できるものが使いやすい。
その他 噴霧スプレー・水差し・ ラベルなどあると便利である。

2 基本的なセッティング の仕方
水槽設置場所
水槽の置き位置は間接的な自然光が入り、室温の変化が少ない場所を選ぶのが理想的である。
また異常に気が付いた場合、すぐに手を入れられるようにしておきたい。
温度対策
室温が低い場合は小型のオートヒーターやラインヒーターなどを使用する。温度は25度程度が最もよく、
たいていの種は20度程度でも問題はない。ただし40度を超えると極端に状態を崩すので、ライトを高架させるなどの対策や、
小型のファンをタイマーで短時間定期的に回すのも効果がある。
ファンを使用する際も、注意が必要で湿度温度のバランスを見ながら加減をするべきである。また条件が整っていれば、
低温には、強いようで10度をきっていても、1週間程度なら問題はないようである。
底砂
水槽内にヒーターを埋めるように底砂を3cm~5cm程度敷く。砂系・ソイル系・腐葉土系を栽培する草に応じ選べばよい。
その際、肥料をあらかじめ入れておくのも効果的である。また鉢と鉢の間にも水コケや腐葉土で埋めるやり方もある。
利点は蓋を多くあけていても湿度を保ちやすく、葉を倒れこみにくいようにすることが出来る点にある。

水槽内に状態の良い水を注水する。腰水の量は低めにした方が根腐れを防ぎ、鉢内の土壌を腐敗させにくいようである。
さらにエアーポンプなど使用すると水の循環や水槽内の空気の循環、さらに二酸化炭素の補給にもなりよい結果を出しやすい。
また水中フィルターなどで水を回す方法を採用する場合は、水位を多めにしアクリルやレンガなどで雛壇を作りその上に鉢を置くやり方も効果的である。
選択したクリプトコリネの種類により若干の向き不向きはあるようだが、好みのスタイルで栽培を楽しむのがよいだろう。
湿度
水槽に蓋をして水槽前面をほんの少し開けておく。
このとき水槽前面に露が付かない程度が一番一般的な湿度であるが、外気と水槽内の温度により見た目では判断しにくい場合も多く、
性能の良い乾湿計を目安にするべきだろう。クリプトコリネを入れる前に練習しておこう。水中栽培していたクリプトコリネを入れる際、始めは高湿度が良い。
その後徐々に低湿度に慣らした方が、夏の暑さを乗り越えやすく病害虫の発生を軽減してくれ、さらには開花率もあがるようだ。
コレクションを増やす際、問題になるのがせっかく低湿度で慣らしたクリプトコリネの中に新たに高湿度を要求する物を入れる場合にある。
そのような場合、出来れば小型のケースを用意し、いったんそこで慣らし栽培をしてメイン水槽に移すとよいようである。

屋外の温室で栽培する際は、スクリーンなどで陰にするべきだが、室内では2灯程度の蛍光灯の光は必要である。
どちらかといえば細葉系クリプトコリネの開花には多くの光を必要とするようである。アクアリュウムで使用している蛍光灯のお古でもよい。
新品の蛍光管を使用する際は交換周期を早くし光量ショック無くしたい。照明時間は大体12時間程度で長めにすると開花率が高まるようだ。
3 クリプトコリネの植栽
さて基本的なセットが出来ればいよいよ植栽である。
基本用土
山間部細流型のクリプトコリネの基本用土は、赤玉土:鹿沼土:ピート:腐葉土を4:3:2:1程度で、
難易度が高い細葉系にはケト土と砂を組み合わせると効果が高いものも多いようだ。
泥炭湿地型のクリプトコリネの基本用土は腐葉土:ピート:鹿沼土を6:3:1程度である。
水コケ単一や腐葉土単一でもよい結果が得られるようだ。
もちろん株のサイズや根の状況などを考慮して用土は変更するが、
一般的な株ではこれで充分なので、参考にしていただきたい。
更なる改良は栽培者の創意工夫にゆだねたいと思う。用意した用土を発砲スチロールの箱に入れ、かき混ぜ基本用土を作っておく。
その際、マグアンプKなど肥料を規定量の一番少なめで入れておく。
残りは次の鉢のために保管しておくと便利であろう。
クリプトコリネの入手
さまざまな形態で販売されているクリプトコリネであるが、ロックウールなどで栽培されたポット物や、バラ株、
水上で管理されたものや、水中で管理されたものなどが一般的である。
水上栽培する場合、有利なのは水上で管理されていたものを入手することだろう。
しかし現状は水中で販売されているものが多く、欲しいものが欲しい状態で管理されているケースは余り多くないようだ。
一般的な流通だとファームではほとんどが水上で栽培されていることが多いが、
出荷前に水中に一時的に沈めて出荷するケースや、水上で入荷しても販売の段階で水中に入れられることが多く
完全に水上の形で手元に来ることは少ないようだ。
最近は現地からの採集物もたまに入荷するようになってきた。
現地でも水上葉と水中葉があるのだが、流通の段階でまとめられることも多いようだ。
いずれにせよ、今日でも皆様の要望がかなうほどさまざまなタイプが流通している状態ではないので、
選ぶ側としても少なからず妥協が必要で、その入手したものをいかに状態よく仕上げていくかがテーマになるのではなかろうか。
その際、水中物を入手した場合、クリプトコリネの種類によっては即水上栽培に切り替えてもうまくいかないものも多いのだが、
そこで手をこまねいていては神秘的な美しい花や、葉の変化などの楽しみや魅力を生かすことが出来ない。
そこでドライケアを施し余計な水分を抜いて植え込むと上手くいく場合が多い。
ドライケア
入手したクリプトコリネをポットからピンセットなどで取り出し、ロックウールを丁寧にはずしていく。
その際、ヒゲ根などはカットしてもよいが、塊根は傷をつけないように注意する。綺麗に株分けした物を1/4程度に切った新聞紙の上にまっすぐ載せる。
その際、各自好みの液肥や活力剤などに付けておくのも効果的だ。その株を包むように新聞紙を巻いていき、
最後ののりしろの部分にしっかり水を付ける。それをビニール袋に入れ、しっかりパッキングする。その際、出来るだけエアーを抜いておく。
しばらくしてから取り出して植栽すると、葉が寝るのを防いでくれる。長葉系のクリプトコリネの植栽に最も効果がある。植栽
素焼き鉢の底にネットを敷き、その上に大き目の鹿沼土か軽石を入れる。
植栽するクリプトコリネを左手で持って鉢のまん中で抑えておき、
先ほど作成した基本配合用土を右手でかけながら入れていく。鉢に軽く山盛り程度入れて出来上がりである。
クリプトコリネが埋まりすぎたらやさしく持ち上げて、塊根の部分が顔を出すように微調整する。
水差しで軽く用土に水をまいて鉢内の土をなじませるが、決して葉をベチャベチャにしないように注意する。
逆に作業の際、乾き過ぎないように軽くスプレーをすることも肝要である。
出来上がったクリプト鉢を、準備した水槽に入れる。このとき鉢の下の水槽底砂に肥料をセットするとなお良い。
いくつかの鉢を並べる際、別の鉢の葉同士があたらないようにゆとりある位置にセットする。
ラベルと記録
鉢には必ずラベルを付け、入手時の水草の名前と入手経路や日時を記録しておく。
クリプトコリネは葉での鑑定だけでは混乱を招き、種類の同定を難しくさせる。長年の栽培に耐える様、しっかり記入しておきたい。
また現地採集物の場合は正確なロカリティーデーターを把握し、混乱無きように勤めるべきである。
クリプトコリネの鑑定には葉や花で行うのが最も一般的風潮であるが、同一株でも花の色彩などは変化することは余り知られていない。
もとになる洋書などのデーターは時代と共に研究が進み、変更や修正があるのが普通である。
よって品種名も大切ではあるが、いつどこで採集されたものかを理解しておくことが、最も重要ではなかろうか。
4 日常のメンテナンス
枯れ葉や溶けかかった葉の除去は気づいたら直ちに行うように心がけたい。
そのままに放置していると、カビの発生を招き病気になり株を駄目にしてしまうこともある。
出来ればガラス蓋の開閉も毎日行ない、換気を促すとより良い。
定期的に用土の表面を加圧できる噴霧器で洗い、腰水の水替えも行うようにしたい。
病害虫
栽培を楽しむ上で問題になるのが病害虫の防除でひどい場合は1週間程度でコレクションを失うほどである。
日ごろからマメにメンテナンスすれば特に心配はないが、油断は大敵である。
最も頻繁に現れるのはアブラムシやハダニで花、葉、などに付着して、植物体から養分を吸い取る害虫である。
これらの吸汁性害虫は少数のうちは綿棒などで捕殺させるが、多発した場合は、
オルトランなどの根から薬剤成分を吸収させ植物全体に行き渡る浸透移行性殺虫剤が有効である。
いずれの殺虫剤も規定量の最少で使用する。
溶けたクリプトの処理
不幸にも葉が溶けてなくなったクリプトを復活させる方法は、状態の良い水槽に塊根を浮かせておくと良い。
エビなどがぬめりのある部分を取り除き、腐敗を防いでくれるようである。しばらくすると再び根が出るはずである。
時期を見て水ゴケなどに挿してやると良い。
植え替え
古くなった用土を新しい用土に交換するため、半年から1年に一度は植え替えを行うとよい。
その際、塊根以外の不定根は2分の1ほど切り詰める。やはり一度空気に触れた根は溶けてしまい根腐れの原因になるので気をつける。
株分け
株分けはランナーを伸ばすクリプトコリネにとって、繁殖の最も確実な方法で、親株と同じ性質を持った株を実生より確実に増やすことができ、
しかも早く開花させることが出来るのである。系統維持のために最低2鉢は栽培しておくことをお薦めする。
5 テクニック
組織培養
組織培養は早く繁殖させるためによい方法で、研究者や各ファームさらには
一部のヨーロッパのマニアなどは多くの経験をもっており実績も上げている。
M-S培地や寒天培地に成長点や小片をいれて培養するのだが、自生地の環境悪化が深刻な問題である今日において、
この技術はこのクリプトコリネの系統維持において、技術が確立して欲しいものである。
植物ホルモン
さまざまな植物ホルモンがあるが、伸長成長促進や開花の誘発に、ジベレリンを使用する研究報告もある。
現段階ではクリプトコリネ栽培において、大きな効果は見出せていないようである。
微生物資材
根を取り巻く環境は多彩な種類を持つ微生物との共生により成り立っている。そのことに着目したのが菌根菌などの微生物資材である。
しかし腰水栽培の水の量が多いと効果は期待しにくいようで、腰水の量を減らした栽培には効果が期待できそうである。
さらなる、臨床報告を待つものとする。
標本
分類学では比較研究が重要で、精密な図や鮮明な写真も重要ではあるが、それらはあくまでも参考であり、
やはり実物に重要な意味を持つものである。もちろん分類学的にという立場ではなく、趣味としても標本を作ることは楽しいものである。
一般的なのは乾燥標本で葉などはおし葉で対応できる。しかし幸運にもクリプトコリネの開花を経験すれば何らかの形跡を残したくなるのが心情ではなかろうか。
花などは液体標本を作るのが一般的で、70パーセントのアルコールを保存液に使う。
容器は蓋付のガラス製の試験管か、ガラスの瓶などを使用する。このような標本のコレクションも趣味としては最高である。
クリプトコリネの分類
クリプトコリネの種類は多いが、日本でもかなり以前からいくつかの種類が輸入され栽培されていた。
しかしヨーロッパの研究者人口に対し、国内では具体的に研究している専門の植物学者が非常に少なかった。
そのため私達はその種名をいくつか混同してきたようである。
その混同が、現在でもそのまま一人歩きしていることもあるほどだ。
今までは自生地を見たことがなく、クリプトコリネを専門でやっている植物学者もおらずではしかたがないことだが、
これからは一つづつでも修正していくことが肝要ではなかろうか。
そのためには栽培者もより詳細な情報を求める必要があり、
学者・研究者・栽培業者・販売店・栽培者が一丸となりこの素晴らしく神秘的な植物に熱心に取り組んでもらいたい。

クリプトコリネの種類