クリプトコリネ バンカエンシスは本文準備中
クリプトコリネ バンカエンシスは、2007 年にオランダの研究者 Bastmeijer(バスメイヤー)が記載した、クリプトコリネのなかでは比較的新しい名前の種です。植物そのものは 1960 年代から知られていましたが、長いあいだスマトラ産のスクリリス(Cryptocoryne scurrilis)と同じものだと考えられていました。ところが花を突き合わせて調べ直すと、1962 年に de Wit(デ・ウィット)がスクリリスを記載したときの図版と合いません。そこで別の種として切り分けられ、産地であるバンカ島にちなむ名前が与えられました。論文の副題も「よく知られたクリプトコリネに与えられた新しい名前」となっており、新発見ではなく名前の付け直しであったことが分かります。
見分けの決め手は仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)です。バンカエンシスは、舷部(げんぶ=仏炎苞の開いた面)のふちにだけいぼ状の小さな突起が並び、喉元が細く、襟(えり=舷部と喉の境にできる輪状の張り出し)がはっきり張り出します。いっぽうスクリリスは仏炎苞の全面に突起が出て、花柱(かちゅう=めしべの先の柄)が長く伸びます。葉だけを見比べても区別がつきにくく、花が咲いてはじめて答えが出る。クリプトコリネらしい種と言えます。
分布はインドネシアのバンカ島とビリトン島、およびスマトラ島南部です。バンカ島では、同じ島に生えるロンギカウダ(Cryptocoryne longicauda)と混じって見られることもあります。栽培では酸性の用土(ブナの落ち葉を用いた例が知られています)でよく育つとされますが、スマトラ島南部産の株については、栽培に成功したという記録がありません。1962 年から 2007 年までの約 45 年間、この植物が「スクリリス」の名で語られてきたという事実は、クリプトコリネの分類が花の細部を見なければ決まらないことをよく表しています。
いまの正式な学名: Cryptocoryne bangkaensis Bastm. (2007) — キュー王立植物園の現行整理で ACCEPTED (正式に認められた学名)。異名の登録はありません
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1962 | de Wit がスマトラ産の Cryptocoryne scurrilis を記載 | Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. 6: 97 |
| 1962〜2006 | バンカ島・ビリトン島の個体群も C. scurrilis として扱われる | The Crypts pages (de Wit 1962・1990 の図版にもとづく同定) |
| 2007 | ★ Bastmeijer が Cryptocoryne bangkaensis として独立記載 | Aqua Planta 32(2): 44–55 (新名は 49 頁) |
| 2007 | スクリリスとの識別点が確定。突起は舷部のふちだけ / 細い喉 / 明瞭な襟 (スクリリスは仏炎苞の全面に突起 + 長い花柱) | Aqua Planta 32(2): 44–55 |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で ACCEPTED。異名の登録なし | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne bangkaensis Bastm. はキュー王立植物園の整理で正式な学名として認められており、異名はひとつも登録されていません。2007 年より前の資料でこの植物が「C. scurrilis」と書かれていても間違いというわけではなく、当時はそう考えられていた、というだけのことです。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ Aqua Planta 32(2) (2007)。