クリプトコリネ パリジネルビアは本文準備中
この水草の歴史は、ボルネオ探検の草分けであるイタリアの植物学者 オドアルド・ベッカリ(Odoardo Beccari)から始まります。1865〜1867 年にサラワクを歩いた彼の採集品の中に本種があり、それをベルリンの アドルフ・エングラー(Adolf Engler)が 1879 年、イタリア・フィレンツェの園芸学会誌に発表しました(Bullettino della R. Società Toscana d'Orticultura 4 巻 301 頁)。種小名(しゅしょうめい=学名の後ろ半分)の pallidinervia はラテン語で「淡い葉脈」。ただし The Crypts pages は、栽培株ではこの淡い葉脈がうまく出ないことがあり、ブナ系の土で育てるとよく出ると書いています。
1970 年、オランダ・ワーヘニンゲンの H.C.D. de Wit が、Haviland が採集した標本をもとに C. venemae という別種を立てました。しかし本種は仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)の形の幅が広く、苞が筒状に閉じないこともあるほど変異に富みます。結局 venemae はその変異の範囲内と判断され、現在は C. pallidinervia の異名としてまとめられています。1879 年の記載から今日まで、本種の学名そのものは一度も置き換わっていません。
生育地はサラワク・ブルネイ・西カリマンタン(ボルネオ島)の泥炭湿地林(でいたんしっちりん=落ち葉が分解しきらずに積もった、水がコーヒー色になる森)。pH 4 前後という強い酸性の水に浸かって育ちます。The Crypts pages によれば、Anderson の観察では泥炭湿地林に広く分布し、自然界では特に珍しい植物ではないのに、ボルネオから輸入されることは滅多にありません。栽培下への導入は Anderson(1957 年)・Driessen(1975 年)・Kettner(1988 年)の記録が知られています。
当店のページには、2002 年 7 月 31 日にサラワクのスリアマン(Serian)エリア・ベトン産として採集された SALT1 の記録が残っています。「4 年目にしてようやく発見でき、今回は開花株も見つかりケトル(仏炎苞の基部にある、袋状にふくらんだ部屋)の内部撮影も済ませられた」「雄花と雌花を結ぶ花糸が極端に短いのが特徴」という現地コメント、pH3.9・TDS22ppm・水温 25.1℃ という水質データつきです。ロンギカウダやバークレアと混生し、パリジネルビアは圧倒的な少数派 — その比率だけはページによって「20 対 1」と「1000 対 1」の二通りの記述が残っていますので、正確な数字ではなく「ごく稀に混じる」という趣旨としてお読みください。さらに 2003 年 12 月 10 日には、マタン産の新産地株を初入荷しています。
いまの正式な学名: Cryptocoryne pallidinervia Engl. (1879) — POWO / WCVP で ACCEPTED (アクセプテッド、正式に認められた学名)。異名 (いみょう=同じ植物に付けられた別の学名) は Cryptocoryne venemae de Wit (1970) の 1 件です
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1865〜1867 | イタリアの植物学者 Odoardo Beccari がサラワクを調査し、本種を含むクリプトコリネを採集 | Engler 1879 (Beccari 採集のボルネオ産サトイモ科を扱った記載論文) |
| 1879 | A. Engler が Beccari の採集品に基づき Cryptocoryne pallidinervia を新種記載 | Bull. Soc. Tosc. Ortic. 4: 301 (IPNI / WCVP) |
| 1957 / 1975 / 1988 | Anderson・Driessen・Kettner によりボルネオから栽培下へ導入 (数少ない輸入記録) | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 1970 | H.C.D. de Wit が Haviland 採集標本に基づき C. venemae を記載。のちに本種の変異の範囲内と判断される | Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. 13: 279 / The Crypts pages |
| 2002-07-31 | 当店の佐々木勇二がサラワクのベトン (スリアマンエリア) で開花株を確認し SALT1 として記録 (pH3.9・TDS22ppm・水温25.1℃) | 当店ページ cry_pallidinervia.html / cry_pallidinervia_salt1.htm |
| 2003-12-10 | マタン産の新産地株を初入荷 | 当店ページ cry_pallidinervia_matan.htm |
| 2005-09 | スリアマン産の再採集株が当店に導入されるが、大半が輸送後に溶けてしまう | 当店ページ cry_pallidinervia2006.html |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. pallidinervia Engl. が ACCEPTED。異名は C. venemae de Wit の 1 件のみ | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne pallidinervia Engl. は POWO / WCVP で正式に認められた学名 (ACCEPTED) です。登録されている異名は C. venemae de Wit (1970) の 1 件だけで、1879 年の Engler の記載以来、学名は一貫しています。染色体数については、本稿では確かな出典を確認できなかったため不明とします。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園、GBIF 上の WCVP 公式データセットで 2026-08-04 確認)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営、cryptocoryneworld.org)/ Engler 1879, Bull. Soc. Tosc. Ortic. 4: 301 / de Wit 1970, Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. 13: 279 / 当店の現地記録ページ(cry_pallidinervia.html / cry_pallidinervia_salt1.htm / cry_pallidinervia_matan.htm / cry_pallidinervia2006.html)。