クリプトコリネ ピグマエアは
クリプトコリネ ピグマエアはフィリピン産クリプトコリネの草分けです。1911 年 12 月 6 日、アメリカの植物学者 エルマー・ドリュー・メリル(Elmer Drew Merrill)がミンダナオ島西部サンボアンガ地方のサックス川(Sax River)で採集し(採集番号 Merrill 8174)、1919 年に「New or noteworthy Philippine plants XV」として Philippine Journal of Science 14 巻 370〜371 頁で新種記載しました。種小名(しゅしょうめい=学名の後ろ半分)の pygmaea は「ごく小さい」の意味です。
ところがその基準標本(タイプ=学名の物差しとなる標本)は第二次世界大戦で失われてしまいます。標本がないと「この学名はどの植物を指すのか」を確かめる術がありません。そこで 1975 年、Rataj が 1940 年 11 月 27 日にサンボアンガ半島カバサラン近郊のムラロン山で L.E. エバロ(Ebalo)が採集した標本(Ebalo 717)をネオタイプ(代わりの基準標本)に指定し、名前の指す実体をつなぎ直しました。
そして 2022 年、この種をめぐる大きな整理がありました。11 月 15 日付の Phytotaxa 572 巻 3 号で、Naive・Bastmeijer・Jacobsen の 3 氏が現地調査に基づき、パラワン島とブスアンガ島で長く「ピグマエア」と呼ばれてきた個体群は別種であることを示し、Cryptocoryne palawanensis として新種記載したのです(Phytotaxa 572: 298)。この結果、本来の C. pygmaea はミンダナオ島西部サンボアンガ半島の固有種に限定され、成熟株が極めて少ないことから絶滅危惧の最高ランク(CR=深刻な危機)相当が提案されました。日陰の渓流沿い、標高 150〜300 m ほどの岩の割れ目や川床に生える植物です。
当店のページには、2003 年 3 月 11 日のバース便(3 月 28 日撮影、全長約 5 cm)と、フルール便(2004 年 11 月 10 日撮影、8〜10 cm)の記録が残っています。「葉の表面に極小の星屑をまとったような」「ラメを散りばめたような」という表現が当時の観察です。ただしページに残っているのは「フィリピン分布」という記述までで、フィリピンのどの島の産かまでは記録がありません。したがって 2022 年の整理でどちらに当たるのかは、当店の記録からは断定できません。パラワン島・ブスアンガ島由来なら現在の学名は C. palawanensis になります。
いまの正式な学名: Cryptocoryne pygmaea Merr. (1919) — POWO / WCVP で ACCEPTED (アクセプテッド、正式に認められた学名)。異名 (いみょう=同じ植物に付けられた別の学名) の登録はありません
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1911-12-06 | E.D. Merrill がミンダナオ島西部サンボアンガ地方 Sax River で本種を採集 (Merrill 8174) | Merrill 1919 / Phytotaxa 572(3) (2022) |
| 1919 | Merrill が Cryptocoryne pygmaea を新種記載 | Philipp. J. Sci. 14: 370–371 (記載は 371 頁、IPNI / WCVP) |
| 第二次世界大戦中 | 基準標本 (タイプ) が失われる | Phytotaxa 572(3) (2022) |
| 1975 | Rataj が Ebalo 717 (1940 年サンボアンガ半島ムラロン山 採集) をネオタイプに指定 | Rataj 1975 / Phytotaxa 572(3) (2022) |
| 2003-03-11 | 当店がバース便で入荷。溶けが出たため鉢植え管理に切り替えて水上で立て直す | 当店ページ cry_pygmaea.htm |
| 2004-11-10 | 当店がフルール便の株を撮影・紹介 (8〜10cm 前後株) | 当店ページ cry_pygmaea_frull.htm |
| 2022-11-15 | Naive・Bastmeijer・Jacobsen が、パラワン島・ブスアンガ島の『ピグマエア』を別種 C. palawanensis として分離。C. pygmaea はミンダナオ島西部サンボアンガ半島の固有種に限定され、CR (深刻な危機) 相当が提案される | Phytotaxa 572(3): 298 (2022) |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. pygmaea Merr. が ACCEPTED、異名の登録なし。C. palawanensis Bastm., N.Jacobsen & Naive も別の ACCEPTED 種 | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne pygmaea Merr. は POWO / WCVP で正式に認められた学名 (ACCEPTED) で、異名の登録はありません。ただし 2022 年に中身が絞り込まれた点が重要で、現在この学名が指すのはミンダナオ島西部サンボアンガ半島の個体群だけです。パラワン島・ブスアンガ島の個体群は C. palawanensis Bastm., N.Jacobsen & Naive (2022) という別の学名になりました。当店の過去入荷株がどちらに当たるかは、産地の記録が残っていないため不明です。染色体数についても本稿では確かな出典を確認できなかったため不明とします。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園、GBIF 上の WCVP 公式データセットで 2026-08-04 確認)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営、cryptocoryneworld.org)/ Merrill 1919, Philipp. J. Sci. 14: 370–371 / Naive, Bastmeijer & Jacobsen 2022, Phytotaxa 572(3): 298「On the identity of Cryptocoryne pygmaea (Araceae) from Western Mindanao and the description of a new species from the islands of Palawan and Busuanga」/ 当店ページ(cry_pygmaea.htm / cry_pygmaea_frull.htm)。