クリプトコリネ ベトナメンシスはベトナム ダナン付近に分布する。
クリプトコリネ ベトナメンシスは、ベトナム中部ダナン近郊のバナ(Ba Na)山地に生える種です。1994 年、ドイツの Ingo Hertel(インゴ・ヘルテル)氏と Helmut Mühlberg(ヘルムート・ミュールベルク)氏が、水草専門誌『Aqua Planta』で新種として記載しました。種小名の vietnamensis はそのままベトナムに由来します。当店ページの「ベトナム ダナン付近に分布する」という記述は、現在の整理とぴたりと合っています。
この種は、標本のほうが名前より 67 年も先にあったという珍しい経緯をたどりました。1927 年、採集家 Clemens(クレメンス)がバナ山地で採った標本(Clemens 4310)は、仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)を欠く不稔(ふねん=花や実をつけていない)の株で、長らく正体が決まりませんでした。1991 年にロシアの Serebryanyi(セレブリャヌイ)が C. annamica(アンナミカ)を記載したとき、この古い標本が引き合いに出され、そのためアンナミカの産地がダナン周辺だと理解されてしまいます。ところが実際に Orlov(オルロフ)氏が株を採ったのは、もっと南のザライ(Gia Lai)省でした。
整理をつけたのは生きた株です。1991 年に Hertel・Mühlberg の両氏がバナ山地で生きた個体を初めて採集し、花を確かめたうえで 1994 年に別種 C. vietnamensis として記載しました。これによって、ダナン〜フエ周辺のものが本種、ザライ省のものがアンナミカ、という線引きが定まります。当店のアンナミカのページに「ダナン・フエ産」とあるのは、現在の整理では本種にあたるものです。ページが誤っていたというより、学界側の理解が後から前進した、と考えるのが正確です。
2026 年現在、Cryptocoryne vietnamensis はキュー王立植物園の WCVP で正式名として扱われ、異名(別名)は 1 つも登録されていません。染色体数(せんしょくたい=細胞の中にある遺伝情報の束)は、今回参照した公開資料では確認できませんでした。
いまの正式な学名: Cryptocoryne vietnamensis I.Hertel & H.Mühlberg (1994) — POWO / WCVP で ACCEPTED (正式に認められた学名)。異名の登録はありません
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1927 | 採集家 Clemens がダナン近郊バナ山地で不稔の標本 (Clemens 4310) を採集。仏炎苞がなく正体が決まらないまま残る | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 1991 | Serebryanyi が C. annamica を記載。その際に Clemens の古い標本が引き合いに出され、アンナミカの産地がダナン周辺と理解される | Aqua Planta 1991(3): 98–101 / IPNI |
| 1991 | Ingo Hertel と Helmut Mühlberg がバナ山地で生きた株を初めて採集 | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 1994 | Hertel & Mühlberg が Cryptocoryne vietnamensis として新種記載。ダナン周辺の個体群がアンナミカと切り分けられる | Aqua Planta 1994(2): 76–81 (学名は 80 頁) / IPNI |
| 1994 以降 | Orlov 採集のアンナミカ原株の産地がザライ省であることが整理され、ダナン〜フエ周辺は本種の分布域と確定 | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 年不明 | 染色体数 (2n) の報告は今回参照した公開資料では確認できず | 不明 |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. vietnamensis I.Hertel & H.Mühlberg が ACCEPTED。異名の登録なし。C. annamica も別の独立種として ACCEPTED | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne vietnamensis I.Hertel & H.Mühlberg は POWO / WCVP で正式に認められた学名 (ACCEPTED) で、異名は 1 つも登録されていません。ベトナム中部ダナン近郊のバナ山地が本来の産地で、当店のアンナミカのページにある「ダナン・フエ産」は、現在の整理では本種にあたります。アンナミカ本来の産地はもっと南のザライ省で、両者は別の独立種として区別されています。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園、2026-08-04 確認)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営、cryptocoryneworld.org)/ Aqua Planta 1994(2) (Hertel & Mühlberg)・1991(3) (Serebryanyi)。