クリプトコリネ プルプレアは本文準備中
クリプトコリネ プルプレアは、マレー半島に分布する自然交雑種(しぜんこうざつしゅ=野外で 2 種が自然に交わってできた植物)です。最初に採集したのはイギリスの植物学者 H.N. リドレー(Ridley)で、1892 年にジョホール州コタティンギで見つけました。株はシンガポール植物園で育てられ、1898 年にヨーロッパへ送られてキュー植物園で開花し、1900 年の Curtis's Botanical Magazine(英国の植物図譜)に図版 7719 番として掲載されます。ただしこのときの名前はグリフィティでした。リドレー自身が新種として記載したのは 1904 年のことです。
長いあいだ普通の種として扱われてきましたが、1975 年以降、花粉が不稔(ふねん=実を結ばない)であることなどから交雑種と考えられるようになり、交雑を示す × を付けて書かれるようになりました。2002 年、当店主・佐々木勇二らがボルネオ島産の集団を雑種変種(ざっしゅへんしゅ=nothovar.、交雑種の中の地域変異を表す階級)ボルネオエンシスとして記載したのに伴い、マレー半島の基本のものは自動的に nothovar. purpurea と呼ばれることになりました。本種に設けられた雑種変種は、この 2 つだけです。
片親が何かは 2015 年に文献上ではっきり示され、2021 年には DNA による直接の証拠が出ました。コルダータ var. cordata とグリフィティの交雑であること、しかもどちらが母親側になる場合もある(双方向の交雑)ことが確かめられています。染色体数(細胞内の染色体の本数)は 2n = 34 で、両親がともに 2n = 34 であることと一致します。
自生地はジョホール州・マラッカ州・パハン州で、パハン州のタセ ベラ(Tasek Bera)湿地が代表的な産地です。仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)の舷部(げんぶ=開いた面)は紫〜赤で表面はざらつき、喉の部分は広く滑らかでやや黄色みを帯びます。襟(えり=舷部と喉の境の輪状の張り出し)がはっきり出ないことが、襟をもつボルネオエンシスとの一番の違いです。
いまの正式な学名: Cryptocoryne × purpurea Ridl. (1904) — 自然交雑種
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1892 | Ridley がジョホール州コタティンギで採集 | PLOS ONE 16(1): e0239499 (2021) 中の記述 |
| 1898 | シンガポール植物園で栽培された株がヨーロッパへ送られる | 同上 |
| 1900 | キュー植物園で開花し、C. griffithii の名で図版化 | Curtis's Botanical Magazine t. 7719 |
| 1904 | Ridley が新種 Cryptocoryne purpurea として記載 | J. Straits Branch Roy. Asiat. Soc. 41: 44 |
| 1975 以降 | 花粉不稔などから交雑種と認識され、× を付けた表記が定着 | Jacobsen (1977) ほか |
| 2002 | ボルネオ産が nothovar. borneoensis として記載され、マレー半島産が自動的に nothovar. purpurea となる | Aqua Planta 27(4): 152–154 |
| 2015 | 両雑種変種の親と染色体数が一覧で明記 (nothovar. purpurea = C. cordata var. cordata × C. griffithii, 2n=34) | Willdenowia 45(2): 183–187 |
| 2021 | ★ DNA (核 ITS + 葉緑体 trnK-matK) で交雑起源を確定、双方向交雑と判明 | PLOS ONE 16(1): e0239499 |
| 2023 | ★ nothovar. borneoensis が独立種へ格上げされ、本種はマレー半島産のみを指す名に | Aroideana 46(3): 14 |
| 2026 現在 | POWO / IPNI / GBIF / Catalogue of Life すべてで accepted。雑種変種は nothovar. purpurea のみ残存 | POWO / IPNI / GBIF |
現在は accepted な自然交雑種(nothospecies)として扱われます。もう一方の雑種変種だったボルネオエンシスは 2023 年に独立したため、いまの本種はマレー半島産のものだけを指します。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ Willdenowia 45(2) (2015) / PLOS ONE 16(1): e0239499 (2021) / Aroideana 46(3) (2023) / GBIF。