クリプトコリネ ロンギカウダはマレーシアからボルネオ スマトラなどに分布しジャングル内のピートスワンプに群落が見られる。仏縁苞は特徴的で著しくリムの伸び垂れる。丸葉凸凹系クリプトとしては昔から知られていたものの日本ではほとんど見かけることがなかったが、ロカリティーの正確なものを国内では初めて持ち込むことができた。
Cryptocoryne longicauda クリプトコリネ ロンギカウダクリプトコリネ ロンギカウダは、1879 年にイタリアの植物学者 Beccari(ベッカリ)がボルネオ島サラワクで集めた標本をもとに、ドイツの Engler(エングラー)が記載した水草です。種小名 longicauda はラテン語で「長い尾」。仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)の先が細く長く伸びて垂れ下がる、この仲間でも指折りに目立つ姿からきています。当店の図鑑ページで「仏炎苞は特徴的で著しくリムの伸び垂れる」と書いてきたのは、まさに学名そのものの特徴です。ただしベッカリが残した花序(かじょ=花の集まり)のスケッチが粗かったため、その後およそ 100 年にわたって「どれが本当のロンギカウダか」が定まりませんでした。
混乱の中身は、別々に付けられた 2 つの名前です。1880 年にイギリスの N.E.Brown(ブラウン)が同じサラワクの株を Cryptocoryne caudata として、1920 年には Engler 自身がマレー半島ジョホール州の株を Cryptocoryne johorensis として、それぞれ独立した種として発表していました。デンマークの Jacobsen(ヤコブセン)らが標本と栽培株の両面からボルネオのクリプトコリネを整理した結果(1985 年)、この 3 つは同じ種と判断されます。学名は先に発表されたほうが優先される決まり(先取権)ですので、1879 年の longicauda が残り、あとの 2 つが異名(いめい=同じ植物につけられた別名)になりました。さらに、1950 年頃にボルネオから輸入され「ロンギカウダ」と呼ばれていた水草が、実際には別種の C. fusca だったことも後に指摘されています。
分布は当初サラワクだけと考えられていましたが、その後マレー半島ジョホール州、そして 1970 年頃からはスマトラ島でも採集され、思いのほか広い範囲に生きていることが分かってきました。当店の図鑑ページでは「マレーシアからボルネオ、スマトラなどに分布し、ジャングル内のピートスワンプ(泥炭湿地=植物が分解しきらずに積もった酸性の湿地)に群落が見られる」と紹介しています。当店ではサラワクのレボール村・スリアマン・ベトン・ルンドゥ・ロバン・プサ、そしてスマトラのバンカ島スンガイジェブスといった産地ごとに株を分けて掲載してきました。「丸葉凸凹系クリプトとしては昔から知られていたものの日本ではほとんど見かけることがなかったが、ロカリティー(産地)の正確なものを国内では初めて持ち込むことができた」というのが、当店がこの種に長く関わってきた理由です。学名の混乱を解く鍵が「どこで採れた株か」であったことを考えると、産地の分かる株を並べて見比べられることには、それだけの意味があります。
いまの正式な学名: Cryptocoryne longicauda Becc. ex Engl. (1879) — 現在も有効な独立種。C. caudata N.E.Br. (1880) と C. johorensis Engl. (1920) はその異名
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1879 | Engler が Beccari のサラワク採集標本をもとに Cryptocoryne longicauda を記載 | Bull. Soc. Tosc. Ortic. 4: 302 |
| 1880 | N.E.Brown がサラワク産を独立種 Cryptocoryne caudata として記載 | J. Linn. Soc., Bot. 18: 242 |
| 1920 | Engler がマレー半島ジョホール産を独立種 Cryptocoryne johorensis として記載 | Pflanzenr. (Arac.-Aroid. & Pistioid.): 244 |
| 1970 頃 | スマトラ島からも採集され、分布がボルネオ・マレー半島以外に広がることが判明 (正確な報告年・文献は特定できず) | 不明 |
| 1982 | Arends・Bastmeijer・Jacobsen がクリプトコリネ属の染色体数と分類を整理 | Nordic J. Bot. 2(5): 453–463 |
| 1985 | ★ Jacobsen がボルネオ産 14 種を整理。caudata と johorensis を longicauda の異名に統合 | Nordic J. Bot. 5(1): 31–50 |
| 1990 | 1950 年頃に「ロンギカウダ」として流通した株は実は C. fusca だったと指摘される (Bastmeijer & Bouwmeester 1990。誌名・巻号は特定できず) | 不明 |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. longicauda Becc. ex Engl. が ACCEPTED (有効な独立種)。異名は C. caudata N.E.Br. と C. johorensis Engl. の 2 つ | WCVP (Kew) 2026-06-04 版 |
2026 年現在、Cryptocoryne longicauda Becc. ex Engl. は独立した種として有効です。キュー王立植物園の WCVP でも ACCEPTED(有効な学名)とされ、異名として C. caudata N.E.Br.(1880)と C. johorensis Engl.(1920)の 2 つが登録されています。1879 年に付けられた名前がおよそ 150 年たった今もそのまま通用しており、名前が二転三転しがちなクリプトコリネのなかでは、めずらしく落ち着いた種と言えます。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP(キュー王立植物園、2026-06-04 版)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ Nordic Journal of Botany 5(1) (1985) / Nordic Journal of Botany 2(5) (1982)。