クリプトコリネ デクスシルバエは本文準備中
クリプトコリネ デクスシルバエは、クリプトコリネの歴史の中でもとくに切ない経過をたどった種です。1971 年、Schulze(シュルツェ)が採集した株が、オランダのワーヘニンゲン農科大学にいた植物学者 de Wit(デ・ウィット)のもとに送られてきました。その株は栽培下で一度だけ花を咲かせ、そのあと枯れて消えてしまいます。de Wit はその一度きりの花をもとに、1976 年、新種 Cryptocoryne decus-silvae として記載しました。学名の decus-silvae は、ラテン語で「森の誉れ(ほまれ)」「森の飾り」という意味です。
産地はマレー半島西部、アイル ヒタム周辺と考えられていますが、採集時の記録に食い違いがあり、正確な場所は今も確定していません。2004 年には Zhou Hang(周航)氏がアイル ヒタム地域を探索しましたが、この種を見つけることはできませんでした。それ以来、野生でも栽培下でも確認されていません。姿については de Wit の記載が残っており、葉は長さ 10〜20 cm・幅 6 cm ほど、葉柄(ようへい=葉と茎をつなぐ柄の部分)は 4〜10 cm、仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む筒状の苞)は 5〜7 cm と伝えられています。
分類の上では、2026 年の時点でも独立した種として正式に認められており、異名(いめい=同じ植物につけられた別名)は 1 つもありません。つまり「学名としては生きているが、実物は誰も持っていない」という状態です。マレー半島の低地の湿地は開発が進み、環境そのものが大きく失われつつあります。この種が今後見つかるかどうかは、まだ誰にも分かりません。
ワイルド(現地採集)の株を扱っておりますと、こうした「名前だけが残った種」に出会うことがあります。デクスシルバエは、水草を採る場所そのものを守らなければ、名前しか残らなくなるということを教えてくれる一例です。
いまの正式な学名: Cryptocoryne decus-silvae de Wit (1976) — 現在も独立種として有効。異名なし。ただし記載以降、野生では再発見されていません
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1971 | Schulze がマレー半島で採集。産地はアイル ヒタム周辺と推定されるが、記録に食い違いがある | The Crypts pages (J.D. バスメイヤー) |
| 1976 | ★ de Wit が新種 Cryptocoryne decus-silvae として記載 (栽培下で一度だけ開花した株にもとづく) | Het Aquarium 46(7): 177「Drie nieuwe Cryptocoryne-soorten」 |
| 1987 | Jacobsen & Bogner の文献で取り上げられる | 不明 |
| 2004 | Zhou Hang 氏がアイル ヒタム地域を探索するも再発見できず | The Crypts pages (J.D. バスメイヤー) 記載の Zhou 2004。誌名・巻頁は特定できず |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で Cryptocoryne decus-silvae de Wit が ACCEPTED。異名は登録なし。ただし野生・栽培とも所在不明のまま | WCVP (Kew) 2026-06-04 版 |
2026 年現在、Cryptocoryne decus-silvae de Wit は独立した種として正式に認められており(ACCEPTED)、異名は 1 つもありません。1976 年の記載以来、扱いが変わったことはありません。ただし記載のもとになった株は栽培下で失われ、その後 50 年にわたり野生でも再発見されていない、事実上「行方不明の種」です。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引、86681-1)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園)2026-06-04 版 / The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ de Wit, H.C.D. (1976) Drie nieuwe Cryptocoryne-soorten. Het Aquarium 46(7): 177。