クリプトコリネ ウンジュラータはスリランカ中央部に分布が知られている。
クリプトコリネ ウンジュラータは、スリランカ中央部に分布する丈夫な水草です。学名は 1954 年に Wendt(ヴェント)氏が「Die Aquarienpflanzen in Wort und Bild(図と文で見る水草)」14 巻 267 頁・269 頁で発表したもの(IPNI・WCVP の登録に基づく年。資料によっては 1955 年と記すものもあります。この本が分冊で刊行されたためです)。種小名 undulata は「波打つ」の意味で、葉の縁がちりちりと波打つ姿に由来します。当店ページの「スリランカ中央部に分布」という記述は、現在も正しいままです。
この種の歩みは、クリプトコリネの歴史のなかでもとりわけ名前の玉突きが激しいものでした。発端は C. nevillii(ネビリー)です。1898 年に Trimen(トライメン)氏が「Handbook to the Flora of Ceylon」4 巻 346 頁で記載した本物の C. nevillii は、季節ごとに葉を落として休眠する、水槽向きとは言えない植物でした。ところが水草の世界で「ネビリー」の名で広く出回っていたのは、まったく別の交雑種 C. × willisii Reitz。1928 年にすでに Petch(ペッチ)氏が疑いを表明していましたが、決着したのは 1976 年、Dan Nicolson(ダン ニコルソン)氏が原産地で採集した株をもとに N. Jacobsen(ヤコブセン)氏が正体を明らかにしたときでした。
ここから玉突きが起こります。「ネビリー」と呼ばれていた植物の正しい名前は C. willisii だと文献調査で判明したのですが、その willisii という名前は、すでに本種(=いまウンジュラータと呼ぶ植物)に対して使われていました。そこで本種はさらに別の名前へ移らざるを得ず、Wendt 氏が 1954 年に発表していた C. undulata が正しい名として採用されたのです。Rataj(ラタイ)氏の C. axelrodii(アクセルロディ)も本種の異名にあたります。名前が二度も入れ替わった、たいへん分かりにくい経緯でした。
見分けについて。本種には二倍体(にばいたい)と三倍体(さんばいたい)があります(染色体=細胞の中にある遺伝情報の束が、2 組か 3 組かの違い)。二倍体は葉縁がよく波打ち、いかにもウンジュラータらしい姿になります。やっかいなのは三倍体で、C. beckettii(ベケッティ)や C. walkeri(ワルケリー)の中間のような見た目になり、仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)を見ないと確実には判定できません。濃い緑で葉裏が深い赤になり、葉がほとんど波打たずワルケリーそっくりに見える個体もあります。逆に明るい緑の個体は C. wendtii(ウエンディティ)の一部の形とよく似ますが、花を咲かせれば区別がつきます。水槽でも水上でもよく育つ、水草として非常に優秀な種です。
いまの正式な学名: Cryptocoryne undulata Wendt (1954) — POWO / WCVP で ACCEPTED (正式に認められた学名)。異名 (シノニム=同じものを指す別名) として Cryptocoryne willisii Engl. ex Baum と Cryptocoryne axelrodii Rataj が登録されています
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1898 | Trimen が本物の C. nevillii を記載 (Handbook to the Flora of Ceylon 4: 346)。休眠する水槽向きでない植物 | WCVP (Kew) / The Crypts pages |
| 1928 | Petch が水草界で「ネビリー」と呼ばれていた植物の正体に強い疑問を呈する | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 1954 | Wendt が Cryptocoryne undulata を記載 (資料により 1955 年とするものもある) | Die Aquarienpflanzen in Wort und Bild 14: 267, 269 / IPNI・WCVP |
| 1976 | Dan Nicolson が原産地で採集した株をもとに N. Jacobsen が決着。流通の「ネビリー」は交雑種 C. × willisii Reitz と判明 | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 1976 以降 | 名前の玉突き。C. willisii の名がその植物へ移ったため、本種は Wendt の C. undulata を正しい名として採用 | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 年不明 | Rataj の C. axelrodii も本種の異名として整理される (統合年は確認できず不明) | The Crypts pages / WCVP (Kew) |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. undulata Wendt が ACCEPTED。C. willisii Engl. ex Baum と C. axelrodii Rataj が異名として登録 | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne undulata Wendt は POWO / WCVP で正式に認められた学名 (ACCEPTED) です。Cryptocoryne willisii Engl. ex Baum と Cryptocoryne axelrodii Rataj が異名として登録されています。なお、交雑種の Cryptocoryne × willisii Reitz は本種とは別に ACCEPTED として扱われており、本物の Cryptocoryne nevillii Trimen も別種として ACCEPTED のままです。名前が似ていて紛らわしい 4 つが、現在はそれぞれ整理されています。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園、2026-08-04 確認)/ The Crypts pages・cryptocoryneworld.org(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ Die Aquarienpflanzen in Wort und Bild 14 (1954, Wendt)・Handbook to the Flora of Ceylon 4: 346 (1898, Trimen)。