クリプトコリネ モエルマニーはスマトラ西部に分布する。ファームより入荷のものも時折見られるが開花確認はできていない。
Cryptocoryne moehlmannii クリプトコリネ モエルマニー
クリプトコリネ モエルマニーは、1983 年にオランダの de Wit(デ・ウィット)が著書『Aquariumplanten』第 4 版のなかで記載した、スマトラ島西部の水草です。種小名 moehlmannii は、ドイツの名クリプトコリネ栽培家 Friedrich Möhlmann(フリードリヒ・メールマン、1920–1991)に捧げられたもの。当店の図鑑ページでも「スマトラ西部に分布する」と紹介しています。
この種は野生での記録がきわめて少ないことで知られます。西スマトラのササク(Sasok)付近で 2 回しか採集されておらず、1 回目は 1955 年の Meijer による標本(Meijer 3505)、2 回目は 1977 年に Jähn(イェーン)が採集して Möhlmann に送った株です。世界の水槽で育っているモエルマニーは、そのほとんどがこの 1977 年の 1 回の採集に由来すると考えられています。つまり学名が付く 6 年前から、この植物はすでにドイツの水槽のなかにあった — 名前のほうが植物より後から追いついてきた、めずらしい順番の種です。
分類のうえでは、いたって静かな歩みをたどっています。1983 年に名前が付いてから一度も学名が変わっておらず、2026 年現在も異名(いめい=同じ植物につけられた別名)は 1 つも登録されていません。クリプトコリネとしてはかなり珍しいことです。ただし混同されやすい相手はいます。2005 年に東カリマンタン(ボルネオ島)から発表された C. noritoi は本種によく似ており、区別の決め手は仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)の細部と、染色体数(モエルマニーは 2n=30、ノリトイは 2n=34)です。当店の図鑑ページに「ファームより入荷のものも時折見られるが開花確認はできていない」と書いてあるのは、花が咲かないと決め手が得られないという、この種の見分けにくさをそのまま示したものです。
いまの正式な学名: Cryptocoryne moehlmannii de Wit (1983) — 現在も有効な独立種。異名の登録はゼロ
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1955 | 西スマトラ Sasok 付近で Meijer が最初の標本を採集 (この時点では未記載) | Meijer 3505 (標本) |
| 1977 | Jähn が同じ地域で採集し、ドイツの栽培家 Möhlmann に送る。現在の栽培株はほぼこの 1 回に由来 | The Crypts pages |
| 1983 | ★ de Wit が Cryptocoryne moehlmannii として記載。種小名は Möhlmann への献名 | Aquariumpl., ed. 4: 212 |
| 2005 | よく似た C. noritoi が東カリマンタンから記載され、染色体数 (moehlmannii 2n=30 / noritoi 2n=34) が区別の決め手になる | Aqua-Planta 30(3): 92–100 |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. moehlmannii de Wit が ACCEPTED (有効な独立種)。異名の登録はゼロ | WCVP (Kew) 2026-06-04 版 |
2026 年現在、Cryptocoryne moehlmannii de Wit は独立した種として有効です。キュー王立植物園の WCVP でも ACCEPTED(有効な学名)とされ、異名は 1 つも登録されていません。記載から 40 年あまり、名前がまったく揺れていない安定した種ですが、その代わり野生の記録が 2 回しかなく、素性の分かる株が限られているという事情を抱えています。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP(キュー王立植物園、2026-06-04 版)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ Aqua-Planta 30(3) (2005)。