クリプトコリネ キリアータはインドからパプアニューギニアまで幅広く分布しており、比較的日当たりがよい開けた河川で多く見られる。キリアータはクリプトコリネ属全体の中でもっとも異質な特徴を多く持ち、仏縁苞、群落規模、種、根茎からの葉の出現パターンなど興味をそそる。
Cryptocoryne ciliata クリプトコリネ キリアータ
はじめに綴りのことをひとつ。この水草の正しい学名は Cryptocoryne ciliata(キリアータ、エルは 1 つ)です。当店ページのファイル名は古くから cillata となっていますが、これは綴り違いで、見出しや本文で使っている ciliata が正解です。ファイル名を変えると外部からのリンクが切れてしまうため、名前はそのままにし、正しい綴りをここに記しておきます。種小名の ciliata は「縁に細かい毛がある」という意味で、仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)の舷部(げんぶ=開いた面)のふちに毛のような突起が並ぶ、この種の特徴をそのまま表しています。
名前の来歴は古く、1820 年にイギリスの植物学者 Roxburgh(ロクスバラ)がインド コロマンデル海岸の植物誌のなかで Ambrosina ciliata として記載したのが最初です。1832 年に Schott(ショット)がクリプトコリネ属へ移し、現在の Cryptocoryne ciliata が成立しました。属が変わったので、もとの著者名がカッコに入って (Roxb.) Schott となる——これが学名の書き方の決まりです。1855 年には Loudon(ラウドン)が Arum ciliatum として扱った記録もありますが、こちらは異名(いめい=同じ植物につけられた別名)として整理されています。
クリプトコリネ属のなかで、この種はもっとも異質な存在です。インド東部・バングラデシュ・ミャンマー・タイ・カンボジア・ベトナム・フィリピン(パラワン)・マレーシア・インドネシアからパプアニューギニアまで、属としては例外的に広い範囲に分布し、しかも生育場所がマングローブ林の潮の満ち引きする泥地、つまり淡水から汽水(きすい=海水がまじる水)の干潟です。日当たりのよい開けた場所を好み、大きな群落をつくります。種子にも工夫があり、袋状の構造のなかで芽(幼植物)が育ってから離れるため、潮の流れに乗って運ばれ、着いた先で根づくことができます。仏炎苞、群落の規模、根茎からの葉の出方——どれをとっても他のクリプトコリネとは違う、興味の尽きない種です。
分類としては、種そのものが揺れたことは一度もありません。動いているのは種の下の区分で、1975 年に Rataj(ラタイ)が葉の広い三倍体(さんばいたい=染色体を 3 組もつ型、2n = 33)を var. latifolia として分け、さらに 1994 年にサラワクで見つかった四倍体(よんばいたい=4 組、2n = 44)が 2018 年に var. bogneri として記載されました。ふつうに見られるのは二倍体(2 組、2n = 22)の var. ciliata です。var. bogneri はサラワク サラトクのセブラク川という一か所からしか知られていません。
いまの正式な学名: Cryptocoryne ciliata (Roxb.) Schott (1832) — ACCEPTED。★正しい綴りは ciliata(エル 1 つ)です。本ページのファイル名 Cryptocoryne_cillata.htm は綴り違いですが、既存のリンクを保つためそのままにしています
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1820 | Roxburgh が Ambrosina ciliata として記載 (インド コロマンデル海岸) | Pl. Coromandel 3: 90 |
| 1832 | Schott がクリプトコリネ属へ移し Cryptocoryne ciliata が成立 | Schott & Endlicher, Melet. Bot.: 16 |
| 1855 | Loudon が Arum ciliatum として扱う (現在は異名) | Encycl. Pl., new ed.: 1508 |
| 1975 | Rataj が広葉の三倍体 (2n=33) を var. latifolia として記載 | Stud. Ceskoslov. Akad. Ved 3: 38 |
| 1994 | サラワクで四倍体の個体群が見つかる | Willdenowia 48: 425–431 (2018) の記述による |
| 2018 | ★ Jacobsen らが四倍体 (2n=44) を var. bogneri として記載。サラワク サラトクのセブラク川のみに知られる | Willdenowia 48: 429 (論文 425–431) |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で ACCEPTED。異名は Ambrosina ciliata Roxb. と Arum ciliatum Loudon の 2 つ。下位に var. ciliata (2n=22) / var. latifolia (2n=33) / var. bogneri (2n=44) の 3 変種 | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne ciliata (Roxb.) Schott は正式な学名として認められています。1820 年の記載から 200 年以上、種としての位置づけは一度も動いていません。整理が進んだのは種の下の区分で、染色体数の違いによって二倍体・三倍体・四倍体の 3 変種が分けられました。当店ページのファイル名にある cillata は綴り違いですので、資料にお書きになるときは ciliata をお使いください。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ Willdenowia 48: 425–431 (2018)。