Cryptocoryne bullosa — ベッカリ採集 1876 年 / エングラー発表 1879 年
クリプトコリネ ブローサは、ボルネオ島マレーシア領サラワク州の山間部から流れる清流に見られます。イタリアの植物学者 O. ベッカリ(Beccari)が 1876 年にサラワクで採集した標本にもとづき、1879 年に A. エングラー(Engler)がイタリアの園芸誌 Bull. Soc. Tosc. Ortic. 4 巻 301〜302 頁で発表した、たいへん古い種です。発表当初の綴りは bulbosa でしたが、のちに葉のぼこぼこした質感を表す bullosa(ブラート=泡立ったように盛り上がる)に改められました。ところが記載後は世界的に長く行方が分からず、1970 年代にサラワクのヘンリー・キー・オン氏らの尽力で再確認されるまで、標本と図版だけが残る状態が続きました。国内では、当店のサラワク調査によって実質初の調査に成功しています。
葉の特徴は凹凸葉の長葉で肉厚。表面は著しくぼこぼこと盛り上がり(ブラート)、上面は濃い緑色で、自生地では黒に近く見えるほど暗い色になります。栽培しても、近縁種のように褐色の斑点が出ないのが本種の特徴です。ボルネオ産クリプトコリネの検索表(見分けるための対照表)でも、「葉身が著しく凹凸になる」という一点で本種が拾い出されるほど、この質感は際立っています。
仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)は全長わずか約 4 cm と非常に短く、舷部(げんぶ=仏炎苞の開いた面)は赤色、襟(えり=舷部と喉の境の輪状の張り出し)は非常に濃い色ではっきりと張り出します。この「極端に短い仏炎苞 + 赤い舷部 + 濃色の襟」の組み合わせが、よく似た近縁種との最大の区別点です。
ヨーロッパでは長年、サラワク・バウ近郊産の C. keei が本種の名で流通しており、染色体数(細胞内の染色体の本数)が 2n = 20 と判明して初めて別種と分かった経緯があります。ほかにマレー半島産の C. affinis も葉の形が似るため本種として売られたことがあり、カリマンタン産の C. hudoroi も凹凸葉ですが、葉が 10〜30 cm と大きく、舷部が幅 0.5〜1 cm でねじれた長い尾状になる点で異なります。なお、かつて本種の変種とされた var. scurrilis は、現在はスマトラ産の独立種 C. scurrilis として扱われています。
Cryptocoryne bullosa クリプトコリネ ブローサ
クリプトコリネ ブローサは、イタリアの植物学者 O. ベッカリ(Beccari)がボルネオ島サラワクで採集した株にもとづく、たいへん古い種です。名前が世に出た経緯は少しややこしく、まず 1879 年に A. エングラー(Engler)が、ベッカリの付けていた名前を引き継ぐ形で Cryptocoryne bulbosa としてイタリアの園芸誌に発表しました。その後 1883 年に、ベッカリ自身が自著『Malesia』で Cryptocoryne bullosa として発表しています。キュー王立植物園の現在の整理では、正式な学名は 1883 年のベッカリのほう(著者名は Becc.)とされ、1879 年の bulbosa はその異名(いめい=同じ植物につけられた別名)として登録されています。当店ページではこれまで 1879 年のエングラーの発表を原記載として紹介してきましたが、学名の出発点としては正しく、著者名の扱いだけが現行整理と異なる、とご理解ください。bulbosa は「球根状の」、bullosa は「泡立ったように盛り上がった」という意味で、後者のほうが本種の葉の質感をよく表しています。
その葉こそが本種の看板です。肉厚の長い葉が表面いっぱいに著しく盛り上がり(ブラート)、上面は濃い緑色で、自生地では黒に近く見えるほど暗くなります。栽培しても褐色の斑点が出ないのが特徴です。花はさらに極端で、仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)の全長がわずか 4 cm ほどしかなく、舷部(げんぶ=仏炎苞の開いた面)は赤色、襟(えり=舷部と喉の境の輪状の張り出し)は非常に濃い色ではっきりと張り出します。「極端に短い仏炎苞 + 赤い舷部 + 濃色の襟」——この三点セットが、よく似た近縁種との最大の区別点です。
混同の歴史も長い種です。ヨーロッパでは、サラワク バウ近郊産の別種が長らく本種の名で流通していました。これは 1982 年に Jacobsen(ヤコブセン)が Cryptocoryne keei として記載した種で、染色体数(細胞内の染色体の本数)が 2n = 20 と判明してはじめて別物と分かりました。マレー半島産の C. affinis も葉の形が似るため本種として売られたことがあり、1985 年に記載されたカリマンタン産の C. hudoroi も凹凸葉ですが、葉が 10〜30 cm と大きく、舷部が細くねじれた長い尾状になる点で異なります。また 1975 年に Rataj(ラタイ)がスマトラ産のスクリリスを本種の変種 var. scurrilis として扱ったことがありますが、現在は 1962 年 de Wit(デ・ウィット)記載の独立種 C. scurrilis に戻されています。
分布はサラワクのごく限られた地域だけです。記載後は世界的に長く行方が分からず、1970 年代にヘンリー・キー・オン氏らの尽力で再確認されるまで、標本と図版だけが残る状態が続きました。国内では、当店のサラワク調査によって実質初の調査に成功しています。当店ページに記録が残るベラヤン産スンガイシブリック、ベブラク、スンガイ マドール、マドール近郊、ロバン、モカック ゲロット村などの株は、いずれも 2002 年から 2005 年にかけて現地で確認・撮影されたものです。
※ 学名・記載情報の出典: IPNI(国際植物名索引)/ キュー王立植物園 Plants of the World Online / The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)。原記載は Engler, A., 1879. Bull. Soc. Tosc. Ortic. 4: 301–302。
いまの正式な学名: Cryptocoryne bullosa Becc. (1883) — ACCEPTED。1879 年に Engler が発表した綴り違いの Cryptocoryne bulbosa Becc. ex Engl. は、現在その異名です
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1876 | Beccari がボルネオ島サラワクで基準となる標本を採集 | 不明 (当店ページの記載による) |
| 1879 | Engler が Beccari の名前を引き継ぎ Cryptocoryne bulbosa Becc. ex Engl. を発表 | Bull. Soc. Tosc. Ortic. 4: 301–302 |
| 1883 | ★ Beccari 自身が Cryptocoryne bullosa として発表。現行整理での正式名はこちら | Malesia 1: 298 |
| 1962 | de Wit がスマトラ産の C. scurrilis を記載 | Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. 6: 97 |
| 1970年代 | 長く行方不明だった本種が、ヘンリー・キー・オン氏らによりサラワクで再確認される | The Crypts pages |
| 1975 | Rataj が scurrilis を本種の変種 C. bullosa var. scurrilis として扱う (現在は独立種 C. scurrilis に戻る) | Stud. Ceskoslov. Akad. Ved 3: 88 |
| 1982 | Jacobsen が近縁の C. keei を記載 (2n=20)。ヨーロッパで長く「bullosa」として流通していた植物 | Nordic J. Bot. 2: 454 |
| 1985 | Bogner & Jacobsen が凹凸葉の C. hudoroi を記載。同年、ボルネオ産 14 種が整理される | Nordic J. Bot. 5: 37 / 5(1): 31–50 |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で ACCEPTED。異名は C. bulbosa Becc. ex Engl. の 1 つ | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne bullosa Becc. は正式な学名として認められています。記載から 140 年以上、変種に落とされることも他種に統合されることもありませんでした。動いたのは周囲のほうで、本種の変種とされたスクリリスは独立種に戻り、本種の名で流通していた植物は C. keei という別の種でした。名前そのものについては、1879 年の綴り bulbosa が異名として残っている点だけご記憶ください。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ Bull. Soc. Tosc. Ortic. 4 (1879) / Malesia 1 (1883) / Nordic Journal of Botany 2 (1982)・5 (1985)。