シネンシスはラオス ミャンマー タイの国境付近に分布する長細葉系のクリプト。
Cryptocoryne crispatula var. sinensis クリプトコリネ シネンシス クリプトコリネ シネンシスは、1937 年にアメリカの植物学者 Elmer D. Merrill(エルマー メリル)氏が、中国の広西省(Kwangsi=現在の広西チワン族自治区)で採れた標本にもとづいて記載した水草です。発表されたのは中山大学の植物学誌 Sunyatsenia(サンヤットセニア=孫文の号にちなむ誌名)3 巻 247 頁。種小名の sinensis は「中国の」という意味で、そのまま産地を表しています。細長い葉をつける、いわゆるクリスパチュラ(Cryptocoryne crispatula)の仲間です。
その後、この細葉のグループは研究が進むにつれ、種というより 1 つの種の中の地域ごとの変わり方として整理されるようになりました。1991 年、デンマークの N. Jacobsen(ヤコブセン)氏がシネンシスを種から変種へ移し、Cryptocoryne crispatula var. sinensis としています(Aqua Planta 1991(1): 29)。当店ページの写真に添えてある学名がこの形なのは、その整理を踏まえたものです。さらに現在のキュー王立植物園の整理では、その変種すら独立を認められず、基本変種(きほんへんしゅ=その種の基準となる変種)の var. crispatula に含められました。The Crypts pages も「中国広西省産のシネンシスのタイプ標本は、いまは C. crispatula var. crispatula とみなされる」と記しています。
ひとつ補足させてください。当店のこのページには「ラオス ミャンマー タイの国境付近に分布する」と書いてありますが、これは当店が扱ってきたゴールデントライアングル産の株の産地であって、シネンシスという名前のもとになったタイプ標本(=学名の基準となる標本)の産地ではありません。名前の生まれ故郷は中国広西省です。もっとも、C. crispatula var. crispatula 自体は中国南部から北タイ・ラオス・カンボジアのメコン川流域まで広く分布しているので、ゴールデントライアングル産の株もその分布域にきちんと収まります。既存の記述が的外れというわけではなく、「学名の由来地」と「当店の株の産地」が別だった、ということです。
クリスパチュラの仲間は現在 9 つの変種に分けられており(var. crispatula/balansae/tonkinensis/yunnanensis/flaccidifolia/kubotae/albida/planifolia/decus-mekongensis)、葉の幅・ふちの波打ち方・厚みで見分けます。シネンシスという呼び名は学名としては役目を終えましたが、細葉クリプトの流通名としては今も生きています。
いまの正式な学名: Cryptocoryne sinensis Merr. (1937) — POWO / WCVP では独立した学名として認められておらず、Cryptocoryne crispatula var. crispatula の異名 (いめい=同じ植物につけられた別名) です。1991 年に立てられた Cryptocoryne crispatula var. sinensis (Merr.) N.Jacobsen も、同じく異名として扱われています
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1937 | Merrill が中国・広西省 (Kwangsi) の標本から Cryptocoryne sinensis を新種として記載 | Sunyatsenia 3: 247 / IPNI |
| 1991 | ★ N.Jacobsen が種から変種へ移し、C. crispatula var. sinensis とする | Aqua Planta 1991(1): 29 / IPNI |
| その後 | クリスパチュラ群の再整理により var. sinensis も独立を認められず、基本変種 var. crispatula に含められる (組み替えの年・文献は特定できず=不明) | The Crypts pages「now regarded as C. crispatula var. crispatula」 |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. sinensis Merr.・C. crispatula var. sinensis (Merr.) N.Jacobsen はいずれも C. crispatula var. crispatula の異名。crispatula の下には 9 変種が認められる | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne sinensis Merr. は正式な学名としては使われておらず、Cryptocoryne crispatula var. crispatula の異名になっています。1991 年に立てられた変種名 C. crispatula var. sinensis も同じ扱いです。ただし 1937 年から半世紀以上、シネンシスはまぎれもなく独立した種名でした。学名の由来となったタイプ標本の産地は中国広西省で、当店が扱ってきたゴールデントライアングル(タイ・ラオス・ミャンマー国境)産の株は、同じ var. crispatula の広い分布域の中の東南アジア側にあたります。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園、2026-08-04 確認。C. sinensis Merr. は accepted = C. crispatula var. crispatula)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営、cryptocoryneworld.org の C. crispatula var. crispatula の項)/ Sunyatsenia 3 (1937, Merrill)・Aqua Planta 1991(1) (1991, N.Jacobsen)。