クリプトコリネ ヌーリーは
Cryptocoryne nurii クリプトコリネ ヌーリー
クリプトコリネ ヌーリーは、1935 年にシンガポール植物園の Furtado(フルタド)が「Araceae Malesicae」という報告のなかで記載した水草です(Gard. Bull. Straits Settlem. 8 巻 147 ページ、論文は 145〜148 ページ)。産地はマレーシア西部のジョホール州とパハン州。フルタドが記録した水中の姿は葉が 35 cm、仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)の筒が 12 cm にも達するというものでしたが、水上で育てると全体がぐっと小さくなり、仏炎苞は 5 cm を超えません。同じ植物が育ち方でここまで変わるため、古くから捉えにくい種でした。当店の図鑑ページの本文が短いままなのも、正直なところこの捉えにくさと無縁ではありません。
この種の歩みで大きいのは、2013 年の変種(へんしゅ=同じ種のなかで、産地などによって安定した違いをもつグループ)の追加です。マレーシア・パハン州ラウブ(Raub)地区の石灰岩地帯に生える一群が、Cryptocoryne nurii var. raubensis(ヌーリー変種ラウベンシス)として発表されました(Ganapathy & Siow ほか、Malayan Nature Journal 65 巻 4 号 230〜239 ページ)。変種名は地名ラウブに由来します。この個体群自体は 1985 年にはすでに記録されていて、正式な名前が付くまでおよそ 30 年かかりました。特徴は仏炎苞の舷部(げんぶ=開いて見える部分)が黄色いこと、そして野生株では葉脈が白く浮くこと(この白い脈は栽培していると消えてしまいます)。砂と砂利の川底、石灰岩の上という環境で、あの C. affinis(アフィニス)と同じ場所に生えています。
2026 年現在、キュー王立植物園の WCVP では C. nurii が ACCEPTED(有効な学名)で、その下に基本変種 var. nurii と var. raubensis の 2 つが並びます。種そのものの異名(いめい=同じ植物につけられた別名)は登録されていません。基本変種 var. nurii はマレー半島の大きな川筋と、スマトラのリアウ諸島(ビンタン島・リンガ島・シンケップ島)に分布します。当店の図鑑ではヌーリーとして、スマトラのビンタン島スンガイロメ産のワイルド(現地採集)株と、オリエンタル便の株を掲載してきました。ビンタン島という産地は、まさに var. nurii の分布域にあたります。なお本種は長期の栽培がとても難しいことでも知られており、産地の分かる株を記録として残しておく意味は、そのぶん大きいと考えています。
いまの正式な学名: Cryptocoryne nurii Furtado (1935) — 現在も有効な独立種。下位に基本変種 var. nurii と var. raubensis Ganapathy & Siow (2013) の 2 変種があります
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1935 | Furtado が Cryptocoryne nurii を記載 (マレー半島ジョホール州) | Gard. Bull. Straits Settlem. 8: 147 (論文 145–148) |
| 1982 | Arends・Bastmeijer・Jacobsen がクリプトコリネ属の染色体数と分類を整理 (本種の主要参考文献の 1 つ) | Nordic J. Bot. 2(5): 453–463 |
| 1985 | パハン州ラウブ地区の石灰岩地帯の個体群が記録される。ただし命名までおよそ 30 年かかる | The Crypts pages |
| 2013 | ★ Ganapathy & Siow ほかが var. raubensis を記載。以後 var. nurii と var. raubensis の 2 変種構成に | Malayan Nat. J. 65(4): 230–239 (WCVP の記録は Malayan Nat. J. 65: 35) |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. nurii Furtado が ACCEPTED (有効な独立種)。下位に var. nurii と var. raubensis Ganapathy & Siow の 2 変種、種レベルの異名の登録はゼロ | WCVP (Kew) 2026-06-04 版 |
2026 年現在、Cryptocoryne nurii Furtado は独立した種として有効です。キュー王立植物園の WCVP でも ACCEPTED(有効な学名)とされ、種そのものに異名はありません。ただし 2013 年以降は 2 つの変種に分かれており、単に「ヌーリー」と呼ぶ場合はふつう基本変種 var. nurii を指します。石灰岩地帯に生える var. raubensis は別扱いになりますので、産地が分かる株では変種まで見ておくと混乱が少なくなります。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP(キュー王立植物園、2026-06-04 版)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営、nurii-group を含む)/ Gardens' Bulletin of the Straits Settlements 8 (1935) / Malayan Nature Journal 65(4) (2013) / Nordic Journal of Botany 2(5) (1982)。