Cryptocoryne griffithii クリプトコリネ グリフィティクリプトコリネ グリフィティは、1856 年にオーストリアの植物学者 Schott(ショット)が記載した、クリプトコリネのなかでも古参の種です。もとになった標本はマレー半島のマラッカ産で、種小名 griffithii は採集者 Griffith(グリフィス)にちなみます。記載から 170 年たった今も独立した種として認められ、異名(いめい=同じ植物につけられた別名)はひとつも登録されていません。分類の変更がくり返されたクリプトコリネのなかでは、めずらしく最初から名前が動かなかった種です。
ただし水草の世界では長く混乱がありました。ヨーロッパの古い水草書でグリフィティとして紹介されていたものが、実際には交雑種のプルプレアやコルダータだった、という取り違えがくり返されています。この交雑種の正体がはっきりしたのは 2021 年で、DNA を用いた研究により、プルプレアはグリフィティとコルダータ var. cordata が自然に交雑したものであること、どちらの種も母親側になりうることが確認されました。両親も交雑種も、染色体数(細胞内の染色体の本数)は 2n = 34 でそろっています。
グリフィティは、もう一方の交雑系統にも深く関わっています。2002 年、ヤコブセン・バスメイヤーと当店主・佐々木勇二の 3 名の連名で、カリマンタン産のボルネオエンシスが記載されました。これはグリフィティ(2n=34)と、ボルネオ島固有のグラボウスキー(2n=68、当店で長くゾナータと呼んできた種)が自然に交雑したもので、染色体数は 2n = 51 になります。マレー半島のプルプレアとは、舷部(げんぶ=仏炎苞の開いた面)にはっきりした襟が出ること、ケトル上部に紫色の帯が入ること、肉穂花序(にくすいかじょ)先端の付属体が紫を帯びることで見分けられます。
分布はマレー半島南部のジョホール州からシンガポール、リアウ諸島のビンタン島を経て、カリマンタン南部にまで及びます。生育場所はゴム園の水路(水深 10〜20 cm)や森の小川、都市近郊の貯水池など、意外に身近な浅い水辺です。葉は表が緑色、裏が淡い赤からピンクを帯び、仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)の舷部の表面が規則正しくシワ状に波打ち、細い襟と短い尾状の突起をもつのが典型的な姿です。産地によっては尾が出ないもの、葉が細く斑の入るものもあり、当店が 2002 年 7 月にビンタン島で採集したセミナロータイプ、トラ斑タイプ、ブラウンタイプの違いも、この幅のなかに収まります。
いまの正式な学名: Cryptocoryne griffithii Schott (1856) — 記載から 170 年、一度も変更なし。異名の登録すらありません
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1856 | Schott が独立種として記載 (マレー半島マラッカ産) | Syn. Aroid.: 1 (1856 年 3 月) |
| 1904 | Ridley が C. × purpurea を記載 (のちに griffithii × C. cordata var. cordata の自然交雑と判明) | Ridley (1904) |
| 19〜20 世紀 | ヨーロッパの水草文献で × purpurea や C. cordata としばしば混同される | The Crypts pages |
| 2002 | ★ C. × purpurea nothovar. borneoensis を記載。親はカリマンタン産の griffithii × grabowskii。著者に当店主 Yuji Sasaki が名を連ねる | Aqua Planta 27(4): 152–154 |
| 2015 | 分布を整理。nothovar. borneoensis の染色体数 2n=51 (= grabowskii 2n=68 × griffithii 2n=34) を明記 | Willdenowia 45(2): 183–187 |
| 2017 | カリマンタン産の一覧で「C. griffithii Schott [ボルネオ新記録]」と記録 | Willdenowia 47(3): 325–339 |
| 2021 | ★ 分子データで × purpurea の両親を確定。双方向に母親になりうることも判明 | PLOS ONE 16(1): e0239499 |
| 2023 | cordata 複合体の再編で borneoensis 側の親の呼び名が var. grabowskii → C. grabowskii に変更 (griffithii 自体は変更なし) | Aroideana 46(3): 1–23 |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で ACCEPTED、異名なし | WCVP (Kew) 2026-06-10 版 |
1856 年の記載から 170 年、一度も変種に落とされず、統合もされず、異名すら登録されていない、きわめて安定した種です。混乱があったのは学名ではなく「どの株がグリフィティか」という同定のほうで、その決着は 2021 年の DNA 研究でつきました。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ Willdenowia 45(2) (2015)・47(3) (2017) / PLOS ONE 16(1): e0239499 (2021) / Aroideana 46(3) (2023)。