クリプトコリネ リングアは本文準備中
クリプトコリネ リングアは、クリプトコリネの研究史のいちばん最初期に名前が付いた種のひとつです。1865 年と 1867 年、イタリアの植物学者 Odoardo Beccari(オドアルド・ベッカリ)がサラワクのクリプトコリネを本格的に調べ、その標本にもとづいて 1879 年に Engler(エングラー)が本種を記載しました。学名の Becc. ex Engl. という表記は、「ベッカリが用意していた名前を、エングラーが正式に発表した」という意味です(ex=〜による)。種名の lingua はラテン語で「舌」。先の丸いさじ形の葉を舌に見立てた名前です。
同じ 1879 年の同じ出版物・同じページには、Cryptocoryne spathulata(スパチュラータ)という名前も並んで発表されています。現在ではこの 2 つは同じ植物と判断され、スパチュラータはリングアの異名(いめい=同じ植物につけられた別名)に整理されました。ただし、どの年のどの論文で異名にまとめられたのかは、今回の調査では特定できませんでしたので、年表ではその行を「年不明」としてあります。
姿の特徴は、紫みのまったく入らない一様な緑のさじ形の葉。仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)は、広く開いた黄色の喉元にはっきりした赤い点が散り、尾は短く、数日たつと前へ折れ曲がります。筒の部分はよくねじれます。染色体数(せんしょくたい=細胞の中にある遺伝情報の束の数)は 2n = 36。ニューギニアの C. versteegii と葉の姿がよく似ていますが、染色体数(36 と 34)と花の作りで区別できます。
生えているのは、サラワクの淡水感潮域(かんちょういき=海の潮の干満で水位が上下する、川の淡水部分)。ボルネオのクリプトコリネの多くが流れの中の水生植物であるのに対し、リングアは根を水中に、葉を水面上に出す抽水(ちゅうすい)性の暮らし方をするところが変わっています。当店のページにも、本種の開花画像を掲載しています。
Cryptocoryne lingua クリプトコリネ リングア
いまの正式な学名: Cryptocoryne lingua Becc. ex Engl. (1879) — POWO / WCVP で ACCEPTED (正式に認められた学名)。異名は C. spathulata Becc. ex Engl. (1879) の 1 つ
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1865・1867 | イタリアの植物学者 Beccari がサラワクのクリプトコリネを調査・採集 | Willdenowia 47(3): 325–339 (ボルネオ研究史の記述) |
| 1879 | Engler が Beccari の標本にもとづき Cryptocoryne lingua を記載 | Bull. (Reale) Soc. Tosc. Ortic. 4: 301–302 |
| 1879 | 同じ出版物・同じ頁で Cryptocoryne spathulata Becc. ex Engl. も発表される | Bull. Soc. Tosc. Ortic. 4: 301 |
| 年不明 | C. spathulata が C. lingua の異名に整理される (公表年・論文は特定できず) | 不明 |
| 1985 | Jacobsen のボルネオ産クリプトコリネ整理に収録 | Nordic J. Bot. 5(1): 31–50 |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. lingua Becc. ex Engl. が ACCEPTED。異名は C. spathulata Becc. ex Engl. の 1 つ | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne lingua Becc. ex Engl. は POWO / WCVP で正式に認められた学名 (ACCEPTED) です。異名として登録されているのは C. spathulata Becc. ex Engl. の 1 つだけ。1879 年の記載から 140 年以上、この名前は動いていません。分布はボルネオ島 (サラワク) です。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園、2026-08-04 確認)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ Bull. Soc. Tosc. Ortic. 4 (1879) / Willdenowia 47(3) (2017)。