クリプトコリネ パルバは
クリプトコリネ パルバの姿が学術の世界に初めて現れたのは 1928 年のことでした。セイロン(現在のスリランカ)ペラデニヤ王立植物園長だった トム・ペッチ(Tom Petch)が「Notes on Cryptocoryne」(Annals of the Royal Botanic Gardens, Peradeniya 11 巻 1 号 11〜26 頁)でこの植物の図を発表しています。ただしこのときペッチは、同じスリランカ産の C. nevillii だと考えていました。つまり図は 1928 年に世に出ていたのに、別種として名前が付くまでに 40 年以上かかったことになります。
決着をつけたのはオランダ・ワーヘニンゲンの H.C.D. de Wit でした。1970 年、クリプトコリネ属の検索表(けんさくひょう=種を見分けるための対照表)を発表した論文の中で、この植物を Cryptocoryne parva として正式に記載します(Mededelingen Botanische Tuinen en Belmonte Arboretum 13 巻 279 頁)。翌 1971 年には水草雑誌 Het Aquarium 41 巻 12 号 291〜293 頁で詳しく紹介しました。種小名(しゅしょうめい=学名の後ろ半分)の parva はラテン語で「小さい」。葉の長さ 6 cm ほど、仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)は 1.5 cm ほどしかなく、クリプトコリネ属で最小級とされます。なお混同されていた C. nevillii Trimen(1898)のほうも、現在なお別の正式な種として認められています。
自生地はスリランカ中央高地、キャンディ周辺とケーガッラ(Kegalle)県。The Crypts pages は「近年はごく数回しか採集されておらず、絶滅が心配される種と見るべきかもしれない」と記しています。草丈が小さく成長が遅いという性質は、水槽の中では扱いやすい長所ですが、自然界では他の植物に押されやすい弱さの裏返しでもあります。仏炎苞の舷部(げんぶ=旗のように開く部分)が開かないのも本種の特徴です。
当店のページには、産地・入荷経路の記録が残っています。ひとつは「スリランカ原産 東南アジア便」で以前から継続して扱ってきたもの(2003 年 6 月 22 日撮影、3〜5 cm 株、ポット)。もうひとつは 2003 年 5 月 3 日に届いたドイツ・ラタイ社便で、「全体的にルーケンスとパルバの間のような草姿」「サイズのばらつきはあるがボリューム感はばっちり」と、同じ学名でも便によって表情が違うことを書き残しています。成長が遅く前景の主役にはなりにくいけれど、あるとレイアウトが一味変わる「名脇役」— これが当店の見立てです。
いまの正式な学名: Cryptocoryne parva de Wit (1970) — POWO / WCVP で ACCEPTED (アクセプテッド、正式に認められた学名)。異名 (いみょう=同じ植物に付けられた別の学名) の登録はありません
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1928 | セイロン (現スリランカ) ペラデニヤ王立植物園長 Tom Petch が本種の図を発表するが、C. nevillii と見なしていた | Ann. Roy. Bot. Gard. Peradeniya 11(1): 11–26 / The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 1970 | H.C.D. de Wit がクリプトコリネ属の検索表の中で Cryptocoryne parva を新種記載 | Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. (Wageningen) 13: 279 (IPNI / WCVP) |
| 1971 | de Wit が Het Aquarium 誌で本種を詳しく紹介 | Het Aquarium 41(12): 291–293 / The Crypts pages |
| 2003-05-03 | 当店がドイツ・ラタイ社便のパルバを入荷 (鉢植えサイズ) | 当店ページ cry_parva_ratai.htm |
| 2003-06-22 | 当店が東南アジア便のパルバを撮影・紹介 (3〜5cm 株、ポット) | 当店ページ cry_parva.htm |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. parva de Wit が ACCEPTED、異名の登録なし | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne parva de Wit は POWO / WCVP で正式に認められた学名 (ACCEPTED) で、異名は 1 つも登録されていません。1970 年の記載以来まったく揺らいでいない、珍しく安定した学名です。混同の歴史があった C. nevillii Trimen も現在なお別種として認められており、両者は現在ははっきり区別されています。染色体数については本稿では確かな出典を確認できなかったため不明とします。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園、GBIF 上の WCVP 公式データセットで 2026-08-04 確認)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営、cryptocoryneworld.org)/ de Wit 1970, Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. 13: 279 / de Wit 1971, Het Aquarium 41(12): 291–293 / Petch 1928, Ann. Roy. Bot. Gard. Peradeniya 11(1): 11–26 / 当店ページ(cry_parva.htm / cry_parva_ratai.htm)。