クリプトコリネ シュルツィはマレー半島に分布する。
クリプトコリネ シュルツィは、記載までの道のりがとても短い種です。1970 年、シュルツェ(Schulze)氏がマレーシア・ジョホール州で採集した株がオランダへ渡り、翌 1971 年には H.C.D. de Wit が水草雑誌 Het Aquarium 42 巻 1 号 14〜15 頁に「クリプトコリネ属(23)ジョホール産の新しいクリプト、Cryptocoryne schulzei」として新種記載しました。種小名(しゅしょうめい=学名の後ろ半分)はもちろん採集者シュルツェ氏にちなみます。基準標本(タイプ=学名の物差しとなる標本)はワーヘニンゲン大学の標本庫(WAG)に収められています。
分布はジョホール州のごく狭い範囲と、スマトラ東岸の島の一つに限られます。小さな川や流れに生え、同じ場所に C. nurii・C. cordata・C. griffithii が混じることも。葉の形の変異が大きく、止水では幅広く、流れの中では細くなるほか、喉元の色が出ない単色(コンカラー)の仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)も現れます。The Crypts pages は「定期的に輸入されるわりに栽培成功の記録がごく少なく、水槽向きの植物ではない」と率直に書き、乱獲と土地利用の変化による減少も心配されています。
当店には、2002 年 10 月 22 日にマレー半島メルシン(Mersing、ジョホール州)の 3 か所を歩いた記録が残っています。フォレスト産(M-MEFO)、ドレイン産(M-MEDO)、モニュメント産(M-MEMO1)— 同じエリアでも産地ごとに分けて記録した自生地ページです。2003 年 5 月には新産地株を入荷し(6 月 25 日撮影、10 cm サイズ)、「この赤系虎斑(とらふ)の美しいタイプで、細葉タイプと丸葉タイプが見られた」と書き残しています。さらに 2004 年 4 月には M-MEFO の株リスト表も公開しました。
ここでひとつ、お伝えしておきたいことがあります。当店はこれらを一貫して Cryptocoryne cf schulzei と表記しています。cf はラテン語 confer の略で「〜に近い/〜と思われる」という、断定を避ける書き方です。ページには「本産地のシュルツィの開花は見ていないが、産地エリア的にど真ん中にある点と形状その他でシュルツィーと判断した。もし変わった花が咲いたら報告いただけると嬉しい」とあります。メルシンは記載産地であるジョホール州の中にあり位置的な矛盾はありませんが、花を確認するまでは断定しない — 現地を歩いた者としての、この慎重さこそが当店の記録の値打ちだと考えています。
いまの正式な学名: Cryptocoryne schulzei de Wit (1971) — POWO / WCVP で ACCEPTED (アクセプテッド、正式に認められた学名)。異名 (いみょう=同じ植物に付けられた別の学名) の登録はありません
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1970 | Schulze 氏がマレーシア・ジョホール州で本種を採集。この標本が基準標本となりワーヘニンゲン標本庫 (WAG) に収蔵 | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 1971 | H.C.D. de Wit が Cryptocoryne schulzei として新種記載。種小名は採集者 Schulze 氏にちなむ | Het Aquarium 42(1): 14–15 (IPNI / WCVP) |
| 1982 | Arends ほかのクリプトコリネ染色体研究で本種にも言及があるが、具体的な染色体数は本稿では確認できず不明 | The Crypts pages (Arends et al. 1982, Nordic J. Bot. 2(5): 453–463 を引用) |
| 2002-10-22 | 当店の佐々木勇二がジョホール州メルシンの 3 か所を記録 (フォレスト M-MEFO / ドレイン M-MEDO / モニュメント M-MEMO1) | 当店ページ cry_schulzei_mersing_monument.htm ほか |
| 2003-05 | 当店が新産地株を入荷 (6/25 撮影、10cm、赤系虎斑、細葉タイプと丸葉タイプ) | 当店ページ cry_schulzei.htm |
| 2004-04 | 当店が M-MEFO の株リスト表を公開 | 当店ページ cry_cf_schulzei_list.htm |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. schulzei de Wit が ACCEPTED、異名の登録なし | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne schulzei de Wit は POWO / WCVP で正式に認められた学名 (ACCEPTED) で、異名は 1 つも登録されていません。1971 年の記載以来、学名そのものは揺らいでいません。ただし当店のメルシン産の株は開花を確認していないため、当店ページでは Cryptocoryne cf schulzei (cf =「〜に近いと思われる」) と、断定を避けた表記を続けています。染色体数については本稿では確かな出典を確認できなかったため不明とします。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園、GBIF 上の WCVP 公式データセットで 2026-08-04 確認)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営、cryptocoryneworld.org)/ de Wit 1971, Het Aquarium 42(1): 14–15「Het genus Cryptocoryne (23), Een nieuwe Crypto uit Johore, Cryptocoryne schulzei」/ Arends, Bastmeijer & Jacobsen 1982, Nordic J. Bot. 2(5): 453–463 / 当店の現地記録ページ(cry_schulzei.htm / cry_schulzei_mersing_monument.htm・2・3 / cry_cf_schulzei_list.htm)。