クリプトコリネ エディサエは
クリプトコリネ エディサエは、1978 年にドイツの水草研究家 Edith Korthaus(エディット コルトハウス)女史が中央カリマンタンで見つけた水草です。1983 年、オランダの植物学者 de Wit(デ・ウィット)が『Aquariumpflanzen』第 4 版 185 頁で正式に記載し、発見者への献名(けんめい=功績をたたえて名前を贈ること)として edithiae と名づけられました。生育地は南カリマンタンの泥炭湿地林(でいたんしっちりん=植物が分解しきらずに積もった酸性の湿地の森)で、落ち葉から出る成分で紅茶色に染まった、いわゆるブラックウォーター(黒い水)の流れです。水の pH(ペーハー=酸性・アルカリ性の目安)は 4 前後という強い酸性です。
この水草には、名前をめぐって長く続いている論点があります。交雑起源(こうざつきげん=別々の 2 種のあいだに生まれた雑種である、という考え方)ではないかという見方です。知られている 4 系統のうち 3 系統で花粉が不稔(ふねん=実を結ばない)で、果実はいまだ確認されていません。さらに染色体数(せんしょくたいすう=細胞の中の染色体の本数)が系統ごとにそろわず、コルトハウス女史の採集株は 2n=68、別の 2 系統は 2n=51、残る 1 系統は不明です。数がそろわないことは、親の組み合わせが一定でない雑種の集まりであることを強く示唆します。
そのため専門家は、エディサエをボルネオの交雑種 Cryptocoryne × purpurea nothovar. borneoensis(2023 年に C. × borneoensis へ格上げ。原記載者に当店主・佐々木勇二の名が入っています)と同じ枠で扱います。2017 年の Willdenowia(ヴィルデノヴィア)47 巻 3 号の論文でも、冒頭で「C. edithiae はいま C. × purpurea nothovar. borneoensis に含める」と述べられています。いっぽうキュー王立植物園の POWO / WCVP は、2026 年現在も Cryptocoryne edithiae de Wit を独立種として ACCEPTED のまま載せています。同じ植物について、専門誌の見解と世界チェックリストの登録が食い違っている状態で、どちらかが間違いというより、まだ決着していないと理解するのが正確です。
当店とのつながりも記録に残っています。The Crypts pages(クリプトコリネ研究の定番サイト。故 J.D. バスメイヤー氏が運営)は、コルトハウス女史以降の追加採集として当店主・佐々木勇二と岸 宏之(Hiroyuki Kishi)氏による 3 系統を挙げ、そのうち佐々木採集の I-SAKK1 に触れています。当店の図鑑にも、サンピットのスンガイ コル デサ クルイング(I-SAKK1)とコタワリンギンのスンガイ タランタン デサ タランタン(I-KOTT)のページが残っています。
いまの正式な学名: Cryptocoryne edithiae de Wit (1983) — POWO / WCVP では今も ACCEPTED (有効な学名)。ただしクリプトコリネ専門の研究者は交雑起源とみて、ボルネオの交雑種 C. × purpurea nothovar. borneoensis (現 C. × borneoensis) に含める立場をとっています
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1978 | エディット コルトハウス女史が中央カリマンタンで発見 | The Crypts pages (J.D. バスメイヤー) |
| 1983 | de Wit が Cryptocoryne edithiae として記載。発見者への献名 | Aquariumpl., ed. 4: 185 (IPNI 957797-1) |
| 2000 年代 | ★ 当店主・佐々木勇二と岸 宏之氏が中央カリマンタンで追加採集 (I-SAKK1 / I-KOTT ほか) | The Crypts pages (J.D. バスメイヤー) / 当店 図鑑ページ |
| 計測年不明 | 染色体数が系統でそろわない (2n=68 / 2n=51 / 残り 1 系統は不明)、4 系統中 3 系統で花粉が不稔 | The Crypts pages (J.D. バスメイヤー) — 計測年は特定できず |
| 2017 | Willdenowia 論文の冒頭で「C. edithiae はいま C. × purpurea nothovar. borneoensis に含める」と明記 | Willdenowia 47(3): 325–339 |
| 2023 | その受け皿となる C. × purpurea nothovar. borneoensis が独立した交雑種 C. × borneoensis へ格上げ | Aroideana 46(3): 14 |
| 2026 現在 | POWO / WCVP では Cryptocoryne edithiae de Wit が ACCEPTED のまま。専門誌の交雑起源説とは扱いが分かれている | WCVP (Kew) 2026-08-04 参照 |
2026 年現在、キュー王立植物園の POWO / WCVP は Cryptocoryne edithiae de Wit を独立種として ACCEPTED (有効) のまま掲載しています。いっぽうクリプトコリネ専門の研究者は、花粉が実らないこと・染色体数がそろわないことから交雑起源とみて、C. × borneoensis (旧 C. × purpurea nothovar. borneoensis) に含める立場です。決着はまだついていません。アクアリウムでは「エディサエ」の名で親しまれています。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引、レコード 957797-1)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園、2026-08-04 参照)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ Willdenowia 47(3): 325–339 (2017) / Aroideana 46(3): 14 (2023)。