クリプトコリネ スクリリスは本文準備中
クリプトコリネ スクリリスは、1956 年にオランダの植物学者 Willem Meijer(ウィレム マイヤー)氏が、スマトラ島リアウ州のインドラギリ川(Indragiri)上流域で見つけた水草です。オランダに持ち帰られた株をもとに、ワーゲニンゲンの H.C.D. de Wit(デ ウィット)氏が 1962 年に新種として記載しました(Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. Wageningen 6: 97、論文は 92〜98 頁)。仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む筒状の苞)の全面に細かないぼ状の突起が出ること、花柱(かちゅう=めしべの先の柄)が長く伸びることが特徴です。
この名前には少しややこしい歴史があります。まず 1975 年、チェコの Rataj(ラタイ)氏が本種をブローサ(Cryptocoryne bullosa)の変種 var. scurrilis に格下げしました。この扱いは現在は認められておらず、異名として残っているだけです。もうひとつ、より大きな混乱がありました。インドネシアのバンカ島・ビリトン島(ブリトゥン島)に生える株も、1962 年から 2006 年までの 45 年近く「スクリリス」と呼ばれ続けていたのです。じつは de Wit 氏の 1962 年(および 1990 年)の図版のうち図 4・図 5 は、スマトラ島産ではなく、この島の植物を描いたものでした。
決着は 2007 年につきました。スイスの Waser(ワザー)氏、そして日本の佐々木氏らが両島をくまなく歩いて材料をそろえた結果、仏炎苞が de Wit 氏の図 3(=本来のスクリリス)と合わないことがはっきりし、Bastmeijer(バスメイヤー)氏がバンカ島産をもとに Cryptocoryne bangkaensis(バンカエンシス)として切り分けたのです(Aqua Planta 32(2): 44–55、新名は 49 頁)。これにより、当店のこのページに並んでいるビリトン島の 5 産地(スンガイ シンパン エンパット I-BESE/スンガイ ベンタイアン I-BESB/アイル マリク I-BEAM2/スンガイ ジャンガン I-BESJ/スンガイ デンダン I-BESD、いずれも 2002 年 7 月の現地画像)は、今の分類ではバンカエンシスにあたります。採集当時の呼び名が間違っていたのではなく、当時は世界中がそう考えていた、というだけのことです。
そのため、学名としてのスクリリスが指すのは、あくまでスマトラ島(リアウ州インドラギリ川上流域を中心とする)の株です。近年のスマトラでは、スクリリスとヌリー(Cryptocoryne nurii)の中間のような姿の株が数多く見つかっており、自然にできた交雑(こうざつ=異なる種のあいだに生まれた子)と考えられています。産地ごとに何枚も画像を残しておくことが、こうした整理のたびに効いてくる種です。
いまの正式な学名: Cryptocoryne scurrilis de Wit (1962) — POWO / WCVP で ACCEPTED (正式に認められた学名)。異名は Cryptocoryne bullosa var. scurrilis (de Wit) Rataj (1975) の 1 つだけです
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1956 | オランダの Willem Meijer 氏がスマトラ島リアウ州インドラギリ川上流域で採集 | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 1962 | de Wit が Cryptocoryne scurrilis として新種記載 (産地: スマトラ) | Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. Wageningen 6: 97 (論文 92–98 頁) / IPNI |
| 1975 | Rataj が C. bullosa の変種 var. scurrilis へ格下げ (現在は認められず異名) | Stud. Českoslov. Akad. Věd 3 (Rev. Gen. Cryptocoryne): 88 / IPNI |
| 1962〜2006 | バンカ島・ビリトン島の株も「スクリリス」として扱われる。de Wit (1962・1990) の図版の図 4・図 5 は実はこの島の植物だった | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 2007 | ★ Waser 氏 (スイス)・佐々木氏 (日本) の現地踏査を受け、Bastmeijer がバンカ島・ビリトン島の株を C. bangkaensis として分離。スクリリスはスマトラ島産に限られることが確定 | Aqua Planta 32(2): 44–55 (新名は 49 頁) / IPNI |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. scurrilis de Wit が ACCEPTED。異名は C. bullosa var. scurrilis (de Wit) Rataj のみ | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne scurrilis de Wit はキュー王立植物園の整理で正式に認められた学名 (ACCEPTED) です。異名は Rataj が 1975 年に立てた C. bullosa var. scurrilis の 1 つだけ。ただし分布の範囲は 2007 年に大きく変わりました。2006 年までスクリリスとされていたバンカ島・ビリトン島の株は、現在は Cryptocoryne bangkaensis Bastm. として別の種になっています。当店のこのページのビリトン島産 5 産地は、学名の上ではバンカエンシスにあたります。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園、2026-08-04 確認)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営、cryptocoryneworld.org の C. scurrilis・C. bangkaensis の各項)/ Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. Wageningen 6 (1962, de Wit)・Stud. Českoslov. Akad. Věd 3 (1975, Rataj)・Aqua Planta 32(2) (2007, Bastmeijer)。