クリプトコリネ ウステリアナはフィリピンのパナイ島での分布が知られている。現在は各ファームで生産されている。
Cryptocoryne usteriana クリプトコリネ ウステリアナ クリプトコリネ ウステリアナはフィリピン産の大型種です。1903 年に Usteri(ウステリ)氏が採集した株をもとに、1905 年、Engler(エングラー)氏が A. Usteri 著「Beiträge zur Kenntnis der Philippinischen Vegetation(フィリピン植生誌)」130 頁でこの名を発表しました。正式な記載文がそろったのは 1916 年の Botanische Jahrbücher 54 巻(2, Beibl. 118)125 頁です。種小名 usteriana は採集者ウステリ氏への献名です。
この種を語るときに避けて通れないのが、C. aponogetifolia(アポノゲティフォリア)との関係です。アポノゲティフォリアは 1919 年に Merrill(メリル)氏が Philippine Journal of Science 14 巻 370 頁で記載しました。ところがその後の長いあいだ、多くの植物学者がこの 2 つを同じものとみなし、アポノゲティフォリアをウステリアナの異名(シノニム=同じものを指す別名)として扱ってきました。ただし、誰がいつ正式に統合したのか、その年と論文は今回の調査では確認できず不明です。分かっているのは「1983 年より前は、ほとんどの植物学者が両者を同一と信じていた」ということ(The Crypts pages)で、異名扱いされていた期間はおよそ 1920 年代から 1980 年代初頭までの 60 年ほどと考えられます。なお de Wit(デ ウィット)氏は 1990 年になってもこの統合に疑いを残していました。
決着をつけたのは実物でした。1982〜1983 年、Josef Bogner(ヨーゼフ ボグナー)氏がフィリピンのギマラス(Guimaras)島で採集した小さな株が開花し、両者が別種であることが確認されたのです。この結果は 1984 年、Bogner 氏が Aqua Planta 誌 4-84 号 7〜13 頁「Cryptocoryne usteriana Engler und Cryptocoryne aponogetifolia Merrill」として報告し、翌 1985 年には N. Jacobsen(ヤコブセン)氏が同誌 4-85 号 14 頁で追認しています。見分けは葉のかたちが分かりやすく、ウステリアナは卵形(らんけい=たまご形)の葉で裏面が赤みを帯びるのに対し、アポノゲティフォリアは細長い線形の葉で凹凸が強く、緑一色で紫を帯びません。
分布について 1 点だけ補っておきます。当店ページには「フィリピンのパナイ島での分布が知られている」とありますが、採集で確実に裏づけられている自生地は、パナイ島の南西に浮かぶギマラス島です(1983 年のボグナー氏の採集地)。キュー王立植物園の POWO はギマラス・パナイ・セブの 3 島を分布として挙げていますが、The Crypts pages はパナイとセブの記録について「完全に確実とは言えない」としています。当店の図鑑ではシンガポール便・グラ・グラ ドイツ便・バース便・デナリー便・水中栽培といった複数の系統をそれぞれ別ページで紹介しており、同じウステリアナでも産地や由来による違いを並べて見ていただけます。
いまの正式な学名: Cryptocoryne usteriana Engl. (1905 / 1916) — POWO / WCVP で ACCEPTED (正式に認められた学名)。よく似た Cryptocoryne aponogetifolia Merr. (1919) も、現在は別種として ACCEPTED です (両者は統合されていません)
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1903 | Usteri がフィリピンで標本を採集 | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 1905 | Engler が Cryptocoryne usteriana の名を発表 | A. Usteri, Beitr. Kenntn. Philipp. Veg. 130 / IPNI |
| 1916 | Engler による正式な記載文が発表される | Botanische Jahrbücher 54(2, Beibl. 118): 125 / IPNI |
| 1919 | Merrill が C. aponogetifolia を記載 | Philippine Journal of Science 14: 370 / IPNI・WCVP |
| 統合の年 | 不明。C. aponogetifolia を C. usteriana の異名とみなす扱いが定着したが、誰がいつ統合したかは確認できず | 調査範囲では未確認 (2026-08-04) |
| 1983 まで | 「ほとんどの植物学者が両者を同一と信じていた」状態が続く。異名扱いの期間は約 60 年 | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 1982〜1983 | Josef Bogner がギマラス島で採集した株が開花し、両者が別種と確認される | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 1984 | Bogner が両種の違いを報告 | Aqua Planta 4-84: 7–13 (Bogner) |
| 1985 | Jacobsen が追認の報告 | Aqua Planta 4-85: 14 (Jacobsen) |
| 1990 | de Wit はなおこの扱いに疑いを残していた | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. usteriana Engl. も C. aponogetifolia Merr. も、それぞれ独立した ACCEPTED | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne usteriana Engl. は POWO / WCVP で正式に認められた学名 (ACCEPTED) です。かつて異名扱いされていた Cryptocoryne aponogetifolia Merr. も、いまは別種として独立の ACCEPTED になっており、両者は統合されていません。「いつ異名になったか」の統合年は確認できず不明ですが、「いつ別種に戻ったか」は明確で、1982〜1983 年のボグナー氏の採集と 1984 年の報告が決め手です。確実な自生地はギマラス島で、POWO はギマラス・パナイ・セブを分布として挙げています。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園、2026-08-04 確認)/ The Crypts pages・cryptocoryneworld.org(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ Beitr. Kenntn. Philipp. Veg. 130 (1905, Engler)・Botanische Jahrbücher 54(2, Beibl. 118): 125 (1916, Engler)・Philippine Journal of Science 14: 370 (1919, Merrill)・Aqua Planta 4-84: 7–13 (1984, Bogner)・Aqua Planta 4-85: 14 (1985, Jacobsen)。