Cryptocoryne × purpurea nothovar. borneoensis — レヨンベール発の新種(自然交雑種)
Cryptocoryne x purpurea Ridley nothovar. borneoensis N. Jacobsen, Bastmeijer & Y. Sasaki
クリプトコリネ ボルネオエンシスは中央カリマンタン州に分布する。コルダータ(C. cordata)var. grabowskii とグリフィティ(C. griffithii)との自然交雑種。コルダータタイプの仏炎苞を持ち色彩は濃い紫。
📖 「ゾナータ」から「グラボウスキー」へ — 呼び名が変わっただけです
本種を記載した 2002 年当時、この交雑の片親は「ゾナータ(Cryptocoryne zonata)」という独立した種として扱われており、当店でもそのようにご紹介してまいりました。その後の研究でゾナータはグラボウスキー(Cryptocoryne grabowskii)に含まれる同じ植物と判断され、ゾナータという名前のほうが使われなくなりました(シノニム化=異名化。Willdenowia 47 (2017) ほか)。つまり植物が入れ替わったのではなく、呼び名が変わっただけです。染色体数もこれを裏づけており、本種の 2n = 51 はグラボウスキー(2n = 68)とグリフィティ(2n = 34)の組み合わせに一致します(PLOS ONE, 2021)。
記載は 2002 年、当店主・佐々木勇二がデンマークのニルス・ヤコブセン(N. Jacobsen)、オランダの J.D. バスメイヤー(Bastmeijer)両氏と共同で行いました。マレー半島産の自然交雑種 Cryptocoryne × purpurea Ridley の新しい雑種変種(nothovar.=交雑種の中の変異を表す階級)としての記載で、原記載はドイツの水草専門誌 Aqua Planta 27 巻 4 号 152〜154 頁(2002 年)。C. yujii(145〜146 頁)・C. uenoi(147〜149 頁)と同じ号に掲載されています。
染色体数(細胞内の染色体の本数)は 2n = 51。これは片親のコルダータ var. grabowskii(2n = 68)から 34、グリフィティ(2n = 34)から 17 を受け取った数にちょうど一致し、この数字そのものが交雑起源であることの裏づけになっています。仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)はコルダータタイプで、舷部(げんぶ=仏炎苞の開いた面)は濃い紫〜赤紫。表面はざらつき、襟(えり=舷部と喉の境の輪状の張り出し)がはっきり出ること、花筒基部のふくらみ(ケトル)の上部に紫色の帯が入ること、肉穂花序(にくすいかじょ=棒状の花の集まり)の先端の付属体が紫色になることが、襟をもたないマレー半島の基本変種 nothovar. purpurea との違いです。
🔍 見分け方:仏炎苞(花を包む苞)が紫色のものが本種 ボルネオエンシスです。黄色みを帯びるものは、コルダータ(C. cordata)のバリエーションとして区別されます。
Cryptocoryne x purpurea nothovar. borneoensis クリプトコリネ ボルネオエンシス
2023 年 12 月 29 日、本種は雑種変種(nothovar.)から独立した交雑種へ格上げされました。発表は Aroideana 46 巻 3 号 14 頁(論文は 1〜23 頁、N. ヤコブセン・S. ウォンソ・M. オアゴー 共著)です。カッコに包まれた 3 名が 2002 年の原記載者で、当店主・佐々木勇二の名前は格上げのあとも学名の中にそのまま残っています。旧名 Cryptocoryne × purpurea nothovar. borneoensis は、いまは異名(いめい=シノニム、同じ植物を指す古い名前)として扱われます。
この格上げは、同じ論文でコルダータの仲間が整理し直されたことと一続きです。それまでコルダータの変種とされていたグラボウスキー(Cryptocoryne grabowskii Engler, 1898)が独立した種として復活したため、本種の片親も「コルダータの変種」ではなく「グラボウスキーという 1 つの種」になりました。片親が入れ替わったのではなく、片親の呼び名の格が上がっただけです。
見分け方は格上げのあとも変わりません。舷部(げんぶ=仏炎苞の開いた面)にはっきりした襟が出ること、花筒基部のふくらみ(ケトル)の上部に紫色の帯が入ること、肉穂花序(にくすいかじょ=棒状の花の集まり)の先端の付属体が紫色になること — この 3 点が、襟をもたないマレー半島のプルプレアとの違いです。花粉は不稔(ふねん=実を結ばない)で、果実は今日まで確認されていません。栽培は交雑種のなかでは容易な部類で、水槽内でも育てられます。
※ 学名・記載情報の出典: IPNI(国際植物名索引)/ キュー王立植物園 Plants of the World Online / The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)。染色体数は PLOS ONE (2020) 掲載の分子系統研究による。原記載は Aqua Planta 27(4): 152–154 (2002)。
いまの正式な学名: Cryptocoryne × borneoensis (N. Jacobsen, Bastmeijer & Y. Sasaki) Wongso — 2023 年に独立した交雑種へ格上げ
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1898 | 片親グラボウスキーが独立種 Cryptocoryne grabowskii Engl. として記載 | Bot. Jahrb. Syst. 25(1-2): 28 |
| 1970 | Cryptocoryne zonata de Wit 記載 (のちグラボウスキーと同一と判断) | Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. Wageningen 13: 280 |
| 1999 | ★ 当店主・佐々木勇二が中央カリマンタン サンピット周辺で採集 | The Crypts pages (Bastmeijer) |
| 2002 | ★ 新雑種変種 C. × purpurea nothovar. borneoensis として記載。同じ号の 151 頁で zonata・grabowskii が C. cordata の変種にまとめられる | Aqua Planta 27(4): 152–154 |
| 2015 | 親と染色体数が文献に明記 (C. cordata var. grabowskii × C. griffithii, 2n=51) | Willdenowia 45(2): 183–187 |
| 2017 | C. zonata を var. grabowskii の異名と確認 | Willdenowia 47(3): 325–339 |
| 2021 | 近縁のプルプレアの交雑起源を DNA で確認、本種 2n=51 の由来 (68 の半分 34 + 34 の半分 17) を提示 | PLOS ONE 16(1): e0239499 |
| 2023-12-29 | ★ 独立した交雑種へ格上げ (comb. nov.)。同論文で C. grabowskii が独立種に復活 | Aroideana 46(3): 14 |
| 2026 現在 | POWO / GBIF / Catalogue of Life は C. × borneoensis を accepted、旧 nothovar. 名を synonym として明示 | POWO / GBIF / COL |
現在の正式な学名は Cryptocoryne × borneoensis (N. Jacobsen, Bastmeijer & Y. Sasaki) Wongso です。2002 年の原記載者 3 名はカッコの中に残り、Wongso 氏が組み替えた形になります。植物そのものは一切変わっておらず、名前の階級だけが上がりました。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引、レコード 77336232-1)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ Willdenowia 45(2) (2015)・47(3) (2017) / PLOS ONE 16(1): e0239499 (2021) / Aroideana 46(3): 14 (2023) / GBIF・Catalogue of Life。