クリプトコリネ フスカは
Cryptocoryne fusca クリプトコリネ フスカ
クリプトコリネ フスカは、1970 年にオランダの植物学者 de Wit(デ・ウィット)が新種として記載した水草です。それまでこの植物は、まったく別の種である C. longicauda(ロンギカウダ)の名前で栽培・流通していました。de Wit が長年かけてロンギカウダの本当の姿を突き止めた結果(de Wit 1953・1966・1990)、それまでロンギカウダと呼ばれていた植物には新しい名前が必要になり、そこで与えられたのがフスカという名前です。名前が変わったのではなく、「別の名前で呼ばれていた植物に、ようやく正しい名前が付いた」というのがこの種の出発点です。
ややこしいことに、de Wit は 1970 年の同じ出版物のなかで Cryptocoryne tortilis(トルティリス)という名前も発表しています。その後の研究で、この 2 つは同じ植物と判断され、トルティリスはフスカの異名(いめい=同じ植物につけられた別名)に整理されました。ただし、どの年のどの論文でそれが確定したのかは、今回の調査では特定できませんでした。年表ではその行を「年不明」としてあります。先に発表された名前が優先される決まり(先取権)に照らして、同じ出版物・同じページに並んだ 2 名のうちフスカのほうが残った、という関係です。
分布はボルネオ島西部(西カリマンタン)が中心で、潮の影響を受ける河口域から内陸の奥深くまで、幅広い環境で見つかります。近年はサラワク州、そしてスマトラ側のビリトン島からも記録されています。2017 年のカリマンタン調査報告でも、フスカは島内の記録の中心を占める種のひとつとして扱われました。姿は、やや凹凸のある幅広い葉と、15 cm ほどにもなる白っぽい仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む苞)が特徴で、葉の裏と縁には 0.1 mm ほどの細かい毛があり、開いた舷部(げんぶ)の内側は強くいぼ立ちます。
当店のページには、2002 年 7 月のビリトン島スンガイレンギアン、同年 10 月のアイルシンパンティガの自生地画像、そしてシンタン産の株が並んでいます。西カリマンタンからスマトラ側のビリトン島まで、フスカが実際にどれだけ広い場所に生えているかを、現地の写真がそのまま示している格好です。
いまの正式な学名: Cryptocoryne fusca de Wit (1970) — POWO / WCVP で ACCEPTED (正式に認められた学名)。異名は C. tortilis de Wit (1970) の 1 つ
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1970 年代以前 | この植物は C. longicauda の名前で栽培・流通していた | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) / de Wit 1953, 1966, 1990 |
| 1970 | de Wit が Cryptocoryne fusca を新種として記載 | Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. Wageningen 13: 279 |
| 1970 | 同じ出版物で de Wit が Cryptocoryne tortilis も発表 | Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. 13: 279 |
| 1985 | Jacobsen がボルネオ産クリプトコリネを整理 | Nordic J. Bot. 5(1): 31–50 |
| 年不明 | C. tortilis が C. fusca の異名に整理される (公表年・論文は特定できず) | 不明 |
| 2017 | カリマンタン産クリプトコリネの調査報告で、記録の中心を占める種のひとつとして扱われる | Willdenowia 47(3): 325–339 |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. fusca de Wit が ACCEPTED。異名は C. tortilis de Wit の 1 つ | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne fusca de Wit は POWO / WCVP で正式に認められた学名 (ACCEPTED) です。異名として登録されているのは、同じ 1970 年に発表された C. tortilis de Wit の 1 つだけ。1970 年の記載から今日まで、フスカという名前そのものは一度も置き換えられていません。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園、2026-08-04 確認)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営)/ Willdenowia 47(3) (2017)。