Cryptocoryne striolata
クリプトコリネ ストリオラータ クリプトコリネ ストリオラータは、1879 年にドイツのサトイモ科研究の大家 Adolf Engler(アドルフ エングラー)氏が、ボルネオ島から届いた株にもとづいて記載した水草です。発表されたのはイタリアのトスカーナ園芸協会報(Bull. Reale Soc. Tosc. Ortic.)4 巻 301〜302 頁という、いまでは手に取りにくい古い雑誌でした。ボルネオ島だけに生える固有種で、サラワク州を中心に知られていますが、調査の進んでいない島の南部・東部にはもっと広く分布していると考えられています。
この種を語るうえで外せないのが、葉のとんでもない変わりやすさです。自生地ごとに違うのはもちろん、栽培中の 1 株の中でさえ、ぼこぼこした盛り上がり(bullation(バレーション)=葉面の凹凸)の強さ、緑から黒に近いまでの色、条(すじ)の入り方が変わっていきます。花が咲いていない株を葉だけで同定するのはほぼ不可能、とまで言われるほどです。当店のこのページに、アサン産(M-SIBA、ブラウンタイプの M-SIBA1 とグリーンタイプの M-SIBA2)、ボンティ産、クダガン産、ジカン ブサン産(M-SIJB)、カワサン ラランガン産(M-SEKL2)、マンドール産(M-SESM2)、タジョック バジュット川産(TB2)と、産地ごとに何十枚も画像を並べているのは、まさにこの変わりやすさをそのまま記録したものです。
名前の歴史も、その多型(たけい=形の幅)に振り回されてきました。1970 年、オランダの de Wit(デ ウィット)氏が別種 Cryptocoryne gracilis を記載しましたが、1990 年には de Wit 氏自身がこれをストリオラータの変種として扱い直しています。そして現在のキュー王立植物園の整理では、変種としても認められず ストリオラータの異名とされました。葉の幅がこれだけ大きい以上、葉で切り分ける区分は成り立たない、という判断です。
では何で見分けるのか。ひとつは花です。仏炎苞(ぶつえんほう=花を包む筒状の苞)は細く、先が長い尾のように伸びた狭い舷部(げんぶ=開いた面)で終わり、色は黄色から赤紫。喉元には赤い帯が入り、赤い点が出ることもありますが、襟(えり=舷部と喉の境にできる輪状の張り出し)はありません。もうひとつは染色体(せんしょくたい=細胞の中にある遺伝情報の束)の数で、本種は 2n = 20。ボルネオ島でこの数を持つのは、ほかにキー(C. keei)とフドロイ(C. hudoroi)だけです。ボルネオから広く採集されてきた種ですが、水中でも水上でも栽培はきわめて難しい部類に入ります。
いまの正式な学名: Cryptocoryne striolata Engl. (1879) — POWO / WCVP で ACCEPTED (正式に認められた学名)。異名は Cryptocoryne gracilis de Wit (1970)。なお Cryptocoryne striolata var. cordifolia Ridl. は本種ではなく Cryptocoryne grabowskii の異名です
| 年 | できごと | 文献 |
|---|---|---|
| 1879 | Engler がボルネオ島産の株から Cryptocoryne striolata を新種記載 | Bull. Reale Soc. Tosc. Ortic. 4: 301 (–302) / IPNI |
| 1970 | de Wit がボルネオ島産の別種として Cryptocoryne gracilis を記載 | Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. Wageningen 13: 279 / IPNI |
| 1990 | de Wit 自身が C. gracilis を C. striolata の変種として扱い直す | de Wit (1990) / The Crypts pages (J.D. Bastmeijer) |
| 記載後の研究 | 染色体数 2n=20 と判明。ボルネオ島でこの数を持つのは C. keei と C. hudoroi のみ | The Crypts pages (J.D. Bastmeijer)。初出論文の巻号頁は特定できず |
| 2026 現在 | POWO / WCVP で C. striolata Engl. が ACCEPTED。C. gracilis de Wit は異名。C. striolata var. cordifolia Ridl. は本種ではなく C. grabowskii の異名 | WCVP (Kew) 2026-08-04 確認 |
2026 年現在、Cryptocoryne striolata Engl. は POWO / WCVP で正式に認められた学名 (ACCEPTED) です。1879 年の記載から今日まで、種としての位置づけは一度も動いていません。異名として登録されているのは Cryptocoryne gracilis de Wit (1970) の 1 つ。まぎらわしいものとして Cryptocoryne striolata var. cordifolia Ridl. がありますが、これは本種の変種ではなく Cryptocoryne grabowskii Engl. の異名として整理されています。ボルネオ島の固有種で、葉の姿は産地によっても株によっても大きく変わります。
※ 出典: IPNI(国際植物名索引)/ WCVP・POWO(キュー王立植物園、2026-08-04 確認)/ The Crypts pages(J.D. バスメイヤー氏 運営、cryptocoryneworld.org の C. striolata の項)/ Bull. Reale Soc. Tosc. Ortic. 4 (1879, Engler)・Meded. Bot. Tuinen Belmonte Arbor. Wageningen 13 (1970, de Wit)・de Wit (1990) の著作(The Crypts pages が引く「De Wit 1990」。書名・頁は特定できず)。